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大使館から武者修行参加者へのエールは“Yalla!”

by 新井 均 |2023年02月24日

先日「イスラエル海外武者修行プログラム」紹介記事を寄稿したが、その参加者である7名の早稲田大学学生と社会人1名に対する壮行会が、2月13日に駐日イスラエル大使館で開催された。ホストは町川エフラット文化・科学技術担当官であり、会の冒頭にはイスラエル・ストゥルロブ次席・公使、ダニエル・コルバー経済部代表公使も参加されて、イスラエルに研修に行く若い参加者を激励した。


百聞は一見に如かず 2022年度イスラエル海外武者修行プログラム~No Venture, No Victory~
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新井 均 / 2023年02月03日


壮行会参加者の中心が学生であること、エフラットさんご自身がアカデミア出身であることから、まずはじめにエフラットさんが“Israeli Hope in Academia”というタイトルで、多くの写真・ビデオを使ってイスラエルを様々な切り口から紹介した。世界遺産の数が世界で9位人口当たりの女性起業家の数が世界トップ、などのイスラエルの特徴を示す様々な統計データに加えて、おそらく学生達の印象に残ったであろう内容の一つが兵士達が学生としてキャンパスにいる写真や、妊婦の学生や子連れの学生がいるキャンパスの写真ではないだろうか。


18歳からの兵役を終えてから、あるいは一度社会に出てから大学へ進学するなど、総じて学生の年齢が高いため、日本と比較して学生が“Mature(単に年齢層が高いだけではなく成熟した大人)”であることがイスラエルの特徴である。また、イスラエルの大学では様々なバックグラウンドの人々が出会えるような工夫がなされていることも紹介された。医療が必要な人々も学ぶことを諦めなくて済むようなサービスも大学で提供される。日本ではあまり目にすることのないこれらの事実を自分の目で見て“異文化”を知ることは、海外研修の大きな目的であるはずだ。



また、“氷山”の図を用いて“表には見えないイスラエルの文化をよく見てほしい”というエフラットさんからのメッセージも研修生にはとても重要なポイントだ。言葉や食べ物など、自分たちの文化とは異なるイスラエルの特徴に気づいたときに、その特徴が生まれた背景となりそれらをを支えている伝統、文化、価値観、モラル、哲学などは氷山の水面下の部分のように表からは見えないので、是非見る努力をしてほしい、というエフラットさんからの期待である。見えないところを知るためには“Why?”という意識を持つことが必要であり、この“Why?”こそが、イスラエルのアントレプレナーシップの原点なのである。


その他、ホフステード(オランダの心理学者)の異文化研究から生まれたCultural Dimensionや、IQ(Cognitive Intelligence)、EQ(Emotional Intelligence)、CQ(Cultural Intelligence)、イスラエル人は議論が好きであること、イスラエル人のフツパ(CHUTZPAH)スピリット、などエフラットさんから多くの興味深いレクチャーを頂いたが、すべての参加者が覚えたであろう言葉が“Yalla!”だろう。アラビア語からきた言葉で、Let's move itという意味だそうだ。単なる言葉ではなく、好奇心旺盛なイスラエル人のスピリットでもある。多様な文化の集合体であるイスラエルには多くの課題もあるが、それを乗り越えてゆくのが Yalla! というマインドセットであることをエフラットさんのレクチャーから学んだ。


エフラットさんに続いて、ゲストであるLINEの井上博之氏から、ワイツマン科学研究所への自らの留学経験を紹介いただいた。井上さんは2006年から2014年までワイツマン科学研究所で物理学を学び、修士号、博士号を取得した。井上さんからの参加者へのメッセージは、“(イスラエルでは)ルールは交渉可能である”ということで、井上さんがイスラエルで学んだ重要なポイントだそうだ。井上さんは学部生のときに海外の大学院に進学することを考え、アメリカ、ヨーロッパの多くの大学を調べるなかで、偶然ワイツマン科学研究所を見つけた。多くのノーベル賞受賞者を排出し、スカラーシップも充実しており、何よりも興味深い半導体物理の研究がなされていることから応募を決めたとのことである。


通常はワイツマンの学生募集は5月のところ、日本でのスケジュールの事情から11月に応募して実際に面接を受け、12月末には合格の結果を得たそうで、まさに留学の手続き段階からネゴシエーションを経験した。どんなことでも“決まりである”と諦めずに交渉をすることが可能なのがイスラエルなのである。また、人々の間で常に議論が戦わされていること、そこに参画するには訓練が必要であること、も実体験としてお話いただいた。井上さんが議論に割り込むために声が大きくなったようで、周りから”何を怒っているんだ”と驚かれた、という楽しいエピソードも紹介された。イスラエルへ留学をした日本人の実体験の紹介であり、学生たちにも参考になったはずだ。



最後に研修生から一人5分ずつのプレゼンがあった。発表者は
 畠山 祥 基幹理工学研究科 M1 (株式会社レイワセダ  クリエータ向けアプリ)
 田中 大貴 創造理工学研究科 建築学専攻 M2 (株式会社Urth メタバース)
 青木 志穂 先進理工学部 生命医科学科 B4 (Scrumy モバイルアプリ)
 中辻 新 政治経済学部 国際政治経済学科  B3 (artics 好きを共有するSNS)
 片山 将 教育学部国語国文学科 B5 (法人設立中)
 徐 賢教 機械科学航空宇宙学科 B4 (CONCON 建設業界向けプラットフォーム)
 服部 大地 株式会社EAGLYS (データ・セキュリティ)
の7名で、新田 理恵 先進理工学研究科 M2 (TABEL株式会社 ハーブ商品開発)は都合により最初だけの参加で発表はしていない。



それぞれのサービス、プロダクトの内容は大変興味深く、各自の英語でのピッチもよく準備された見事な発表だった。ただし、開発、事業化のフェーズも様々であり、今後の事業展開に向けて支障がでても問題なので、各プロダクトや事業の詳細は本稿では控えることとする。2月19日から約2週間、研修生たちはエフラットさん、井上さんのアドバイスを心に留めてYalla!精神で多くの人に接し、どんどん議論に参加して良い経験をして欲しい。3月には武者修行の報告会もあると聞いているので、良い成果を期待する。


Yalla balagan! の掛け声で撮った参加者集合写真