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BUSINESS

後付け機材の設置なしで、屋内における位置認証を実現するInfuse Location

by 中島 直美 |2021年12月02日

スマホに表示されたクーポンを店員に見せる女性

皆さんは、スマホに送信されてくるモバイルクーポンを使ったことはありますか?紙のクーポン券と違っていつでも取り出せるので、便利でお得、しかもエコですよね。このクーポン、あらかじめ、もしくはその場でダウンロードしてスマホに入れておくわけですけれど、クーポンの対象商品があるお店の近くに来たそのタイミングで、クーポンが送られてくれればいいのにな、と思ったことはありませんか?実は、イスラエルにはそんなショッピングモールがあるのです。これを可能にしているのが屋内における位置認証技術です。



今回は、機材を新たに取り付けることなく屋内の位置認証ができる、スケーラブルな技術を開発したイスラエルのスタートアップ、Infuse Locationをご紹介します。


屋内における位置認証の難しさ

知らない町に出かける時や車を運転する時に、交通案内システムやカーナビを使うことは今や当たり前。GPSのおかげで地球上どこにいても自分の位置が正確にわかる様な気がするのですが、実はトンネルの中や地下街、建物の中など、GPSシグナルの届かない場所での位置認証の技術は、まだまだ一般には広まっていないのが現状です。


屋内における位置認証は様々な技術が開発されているのですが、シグナルを出す装置やカメラなどといった機材を多数設置しなければならず、正確性やスケーラビリティー、管理や持続性などの観点から、野外の位置認証のように広範囲で気軽に利用できる技術はまだ開発されていませんでした。


機材を設置すれば設置費用が掛かるだけでなく、展開手順に時間がかかり、また機材のためのエネルギー源も必要なうえ、メインテナンスも欠かせません。


GPS接続を失ったスマホ

Infuse Location の技術

そんな問題を解決したのがInfuse Locationモバイルセンサー・フュージョン・アルゴリズムです。Infuse Location は、普通のスマホに装備されているWi-Fi、地磁気測位、ジャイロセンサーやセルラー通信システムなどといった既存のセンサーから得られるデータを統合し、それを位置認証情報に置き換えるアルゴリズムを開発しました。スマホが1台あれば、後付けの機材を設置することなく屋内における正確な位置認証を可能にしたのです。


CEOオレン氏(右)と共同創業者のCTOダビッド・ワインシュタイン氏(左)
CEOオレン氏(右)と共同創業者のCTOダビッド・ワインシュタイン氏(左)

この技術を使って実現させたのが冒頭のプッシュ通知式のクーポン。Infuse LocationのCEOオレン・ローゼン氏は「仕事中や家にいる時にクーポンが送られてきても、実際に買い物に行く時にはすっかり忘れてしまっていることも多い。お店の近くに来た時にクーポンが届いたら、消費者にとっても企業にとっても利益がある。Win-Winの関係がきずけると思いました。」と言います。「もちろんカメラやビーコンなどを使ってプッシュ通知を送ることも可能だけれど、それでは人を立たせてチラシを配るのと大差ありません。リアル行動ターゲティングに基づいたマーケティングを行うには、広範囲における屋内の位置認証が重要になります。それには、素早く安価に展開できて、メインテナンスを必要としない持続的な屋内位置認証技術、Infuse Locationが最適です。」


イスラエルのショッピングモールで届いたプッシュ通知
イスラエルのショッピングモールで届いたプッシュ通知

Infuse Location の位置認証は展開手順が簡単なのも特徴。ダッシュボードとなるスマホ一台を手に位置認証を可能にしたい建物の中を徒歩で移動します。5~8メートル毎に5秒ほど立ち止まってスマホをタップ。このマッピング作業を繰り返すだけです。もちろん複数階層の位置表示も可能で、建物の何階にいるのかということもわかりやすく表示されます。


屋内の位置情報をスマホのダッシュボード上で確認
屋内の位置情報をスマホのダッシュボード上で確認

マーケティングにおける活用法

屋内の位置情報認証がマーケティングにどれほど重要であるか、オレン氏は以下のように話してくれました。「ヨーロッパでは個人情報保護の観点から、防犯以外を目的としたカメラの設置は禁止の方向に動いているため、カメラを使った位置情報認証は事実上不可能になります。この動きは今後世界的に広まっていくでしょう。また、世界的にWeb上のプライバシー保護規制が強化されている昨今、カスタマーのオフラインとオンラインの購買行動のコンバージョンは今まで以上にマーケティングに重要な意味を持つようになります。この様な状況において、屋内でのカスタマーの位置情報認証はマーケティングにおける非常に有用なデータとなるのです。


ユーザー識別情報が匿名化された高い安全性を持つInfuse Location の位置認証技術なら、個人情報保護の観点からも問題はありません。また機材を増設する必要なく、安価で素早く位置認証可能な範囲を拡げることができるため、マーケティングに必要となる様々なデータを取得することが可能になります。」


屋内の行動パターンデータ分析画面
屋内の行動パターンデータ分析画面

様々な分野での可能性

さらにオレン氏は、屋内位置認証技術はマーケティングに限らず様々な可能性を広げるといいます。


「屋内位置認証を使えば、物流やロジスティックにおいても管理を合理化することが可能です。またロボットと人間の協働も今までよりも進んだものになるでしょう。」


病院や高齢者介護施設などにおける患者さんの位置確認、1人暮らしのお年寄りの行動確認、学校やショッピングモール、ホテルなどの緊急避難経路案内、労働者管理など、今までの屋内位置認証が高価で手間がかかり過ぎたために、対費用効果が期待できないと思われてきたことでも、安価になれば様々なことが現実となるのだそうです。


そしてInfuse Location は屋外位置認証ともシームレスにつながっているので、スマートシティの実現にも適しています。イスラエルのテクニオン工科大学では視覚障がい者への音声サポートのPOC(認証実験)が行われました。


「位置情報を音声に変換することで、視覚情報に頼らない道案内が可能になりました。大学内のバス停を降りてから、決められた建物の、特定の階の目的の部屋に到着するまで、まるで盲導犬のようにスマホが音声で道を案内してくれます。体の向きを変えるだけで、「右側にエレベーター」、「前方向に階段」…とInfuse Locationの正確性が活かされました。」


東京地下街で行われたPOCの様子
東京地下街で行われたPOCの様子

Infuse Locationのこれから

イスラエルのショッピングモールや大手クレジットカード会社、アメリカの教育機関(リベラルアーツカレッジ)、リゾート企業、スイスの医療機器会社などなど、Infuse Locationの技術は世界各国で利用されていますが、日本の市場への進出も計画しているとオレンさんは言います。


「実は僕は大の日本ファンで、日本の映画と食べ物が大好きで、そして礼儀正しい日本の人たちをとても尊敬しているのです。日本には独特で様々な先端技術がありますが、僕はInfuse Locationの技術を日本にも広めて日本の皆さんにもぜひ活用してもらいたいと思っています。


夫婦で日本が好きすぎるオレン・ローゼン氏

どこでも安全で楽しいショッピングが楽しめるのが日本ですが、Infuse Location の技術で、社会的弱者にも優しい日本の街づくりに貢献し、そしてより良い購買体験ができるような日本を共に作っていくのが僕の夢です。」


Infuse Location : https://infuse-location.com/