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BUSINESS

なぜイスラエル人はフードイノベーションマスターなのか

莫大な農業・テクノロジーノウハウを融合し、世界躍進へ

by ISRAERU 編集部 |2021年12月09日

Alfred'sのチームの写真です。
イスラエルの新しいB2BスタートアップであるAlfred’sのチームは、肉、鶏肉、肉類似品、および培養肉産業向けの植物ベースのホールカットを生産するための革新的なプラットフォームを提供している。(写真提供:Alfred’s)

牛を介さず、肉と乳製品を生成する方法とは?砂糖や塩の含有量が少ないスナック菓子やソースとは?農作物を新鮮な状態で長持ちさせるラップとは?


気候変動対策を行うべき現代、世界ではこのような商品やレシピが求められている。そしてその研究はキッチン―というよりもThe Kitchenで始まった。


イスラエル・イノベーション・オーソリティのテクノロジカル・インキュベータ・プログラムの一環として、イスラエル最大の食品生産者であるThe Strauss Groupにより、2015年に世界で初めてフードテックの拠点が設立された。


「フードテックハブはここにしかありません」と、The Kitchenの事業開発部部長であるAmir Zaidman氏は2016年に述べている。


現在、The Kitchenでは22のポートフォリオ会社が食料の効率的、サステイナビリティ、安全に提供する方法を開拓(模索)している。


これはThe Kitchenに限ったことではない。現在イスラエルでは政府、企業、フードテックの学術研究所やインキュベータが続々と増えてきている。フードテックのスタートアップ数は、約400にまで増加した。


フードテック(主にアグリ・フードテックと呼ばれる)は、イスラエルの最も価値ある2つの財産の融合であると、Margalit Startup City Galileeの事業開発部部長であるNisan Zeevi氏は述べている。


「それは、世界が不思議がっている私たちの農業に関するノウハウと、ここ4、50年かけて培ってきた科学技術のノウハウです。これら2つを組み合わせると、世界的躍進となるのです。」


成功はSticky

イスラエル経済産業省(=Minstry of Economy and Industry)の報告によると、2013年(5200万ドル)から2018年(1億ドル)にかけて、コカ・コーラ、マース、タイソン・フーズ、ネスレ、ダノン、アンハイザー・ブッシュ・インベブ、スターバックス、ペプシコ、マクドナルド、ハイネケン、ユニリーバといった多国籍企業が投資し、フードテックに対する投資額は約2倍にまで増加。


テルアビブのリサーチ会社であるIVCは、2020年、フードテックは4億3200万ドルもの投資額を記録し、サイバービジネスやフィンテックには及ばないが、急速に成長を続けている分野であると明らかにした。


The Kitchenフードテックハブの事業開発部長であるAmir Zaidman氏の写真です。
The Kitchenフードテックハブの事業開発部長であるAmir Zaidman氏。(写真提供:Tal Shahar)

「サクセスストーリーが多くの起業家を惹きつけます」とFood Biotech Congress(11/8~11/11)、世界初の国際的バーチャル食品展示会(11/21~11/24)にて登壇したThe KitchenのZaidman氏は言う。


「イスラエルは非常に起業家精神の高い国であり、新規アントレプレナーと連続起業家の両者が常に次の大きな事業について考えています。彼らはフードテックが環境と健康分野に大きく影響するとみています」とZaidman氏は語る。


「もしかすると以前、彼らはサイバーセクターへの投資額をみて躊躇していたのかもしれません。しかし、現在、現状を打破する(革新的な)フードテックへの資本投資を得ることができると考えています。」


Zaidman氏は、2022年のイスラエルフードテックの大手(=major)投資ラウンドについて予測を建てている。


「培養肉ステーキの先駆者であるアレフ・ファームズ社のようなスタートアップは、まだ商品が市場に出回ってもいません。しかし彼らの事業がとても素晴らしいものなので広く注目されています。」


実際に、レオナルド・ディカプリオがアルフ・ファームズ社、アシュトン・カッチャーがイスラエルの培養肉企業MeaTechに投資した。


世界規模での躍進

グローバル市場に進出しているイスラエル企業の1つにInnovoProがある。独自の手法を用い、ひよこ豆ーフムスの原材料となる地味だが栄養満点の食べ物ーを食品や飲料用の無味のプロテインパウダーを生産している。


InnovoProは北アメリカとヨーロッパに工場を持ち、シカゴには新しくプラントベースのハンバーガーやナゲット、ミートボール用にひよこ豆のテクスチャ野菜タンパク質(=TVP(Texturized Vegetable Protein))を販売する子会社を設立。スイス最大手の小売企業、スーパーマーケットチェーンであるミグロスは、InnovoProの製品を乳製品不使用のヨーグルトに使用している。


「フムスは中東発祥の食べ物です。科学技術とイスラエル人のノウハウを合わせると、成功を収めるフードテック企業の完成です!」とZeeviは言う。


同じく成功を収めるため、エルサレムを拠点とするMargalit Startup Cityは、9月にガリラヤ支部を発足させた。


キリヤット・シュモナキャンパスには、Finistere VenturesとOurCrowdとともに、食品大手のTnuvaとTempoがサポートする、フードテックアクセラレーター、研究所、エグゼクティブパーク、FreshStart初期段階のインキュベーターが含まれている。


「5年前ガリラヤに行き、ガリラヤの自治体、サービスプロバイダー、投資家、学校、研究機関と協力し、この地域をフードテックおよびアグテックセンターにする計画を立てました。そして政府は5億シェケル(約178億円)の予算を与えました。」とZeeviは言う。


Margalit Startup City Galileeは、エルサレム・ベンチャー・パートナーズ、Cisco、テルハイ大学やイスラエル科学技術省のMigal Galilee Research Instituteのサテライトオフィスを呼び寄せている。


ポートフォリオ会社の1つであるDynaFreshは、新鮮な状態のまま食品の賞味期限を最適化することを目標に、Migalのポストハーベストの専門家たちにより設立された。


Zeevi氏は「Margalit Startup Cityは全ての物理的拠点であり、国際的、業種別の繋がりを作る」と述べている。


サイバーやフィンテックとは違い、フードテックは技術を持った科学者だけでなく、事業拡大後に工場労働者を必要とする。


このように、フードテックを通して、イスラエルの北部や南部周辺の人々にも均等に雇用の機会を提供することができるとZeevi氏は語る。


豊富な投資

Millenniumフードテックの事業開発部長、Yossi Halevy氏の写真です。
Millenniumフードテックの事業開発部長、Yossi Halevy氏(写真提供:Millennium)

VCはフードテックにのみ投資しているわけではない。イスラエルには2020年6月に開始され、テルアビブ証券取引所で取引されている研究開発パートナーシップのミレニアム・フードテックもある。


「イスラエルにはこれまで、実証テストおよび商業化を待つ実証済みの技術を持ち合わせたポストシードスタートアップ向けの機関がありませんでした。」と事業開発部部長のYossi Halevy氏は語る。


「そこで私たちはフードテック専門のVCを立ち上げました。これは未開拓の分野です。」


ミレニアムポートフォリオ会社の中には、SavorEat (プロテインの代替品)、Tipa (堆肥可能なパッケージ)、TripleW (乳酸およびその他の食品廃棄物からのアップサイクル製品の開発)、Aleph FarmsやPhytolon (天然の食紅)がある。



以前、テルアビブにあるE&Yの公認会計士(=CPA, Certified Public Accountant)であったHalevy氏は、”まだ業界が注目されていなかった”4年前から食品や農業のベンチャークリエイションに興味を持ち始めたと言う。


そうして彼は、ミレニアムフードテックの元フレッシュスタート取締役で、彼の古くからの友人であるChanan Schneider氏にかけることにし、参加を決心した。


「私たちは、ネスレや多くの食品会社と提携しています」とHalevy氏は言う。「三角関係なんです。私たちは彼らの知識をデューデリジェンスに応用し、彼らは私たちの知識を投資や概念実証(=PoC(=Proof of Concept))に応用しています。」


原料開発能力はイスラエルの最も優れたケイパビリティの1つであるとHalevy氏は言う。これは、イスラエルの研ぎ澄まされ、多くの専門分野の専門家の強い連帯感を最大限に活用できるからだ。


「イスラエルは多くの面でユニークですが、最も顕著な点は、誰もが皆を知っているということです」と彼は指摘する。


「これは、イノベーション、起業家精神、バイオテクノロジー、物理学、化学、ロボット工学、コンピュータービジョン、人工知能など、さまざまな専門分野の知識を融合しなくてはならないフードテックにとても役立ちます。イスラエルでは簡単にチーム編成を行い、アイデアや開発を交換することが可能です。」


フードテックに参入する企業

イスラエルのフードテックシーンは、まるで酵母パンの生地のように企業から学術、非営利にわたるまで、政府の参加が散りばめられながら多くのセクターに拡大している。


International Flavours&Fragrances(以下、IFF)は、米国を拠点とし、イスラエル北部のMigdal HaEmekでも事業を展開している多国籍企業であり、Israel Innovation Authorityと提携してFoodNxtインキュベーターを運営している。


IFFは、産業プロセスと科学技術、国際規定、および一般的な食品科学の専門知識に関する知識を共有。インキュベーターはまた、資金を提供し、ポートフォリオのスタートアップがビジネスプランを構築し、特許戦略を開発し、製品をテストするのを支援している。


Salt of the EarthのR&D技術者兼アプリケーションマネージャーであるRakefet Rosenblatt氏の写真です。
Salt of the EarthのR&D技術者兼アプリケーションマネージャーであるRakefet Rosenblatt氏(写真提供:Salt of the Earth)

イスラエル北部にあり、1922年に設立された国際的なイスラエル企業であるSalt of The Earthは、カレッジの研究室での成分分析などといったさまざまなプロジェクトを行うためテルハイカレッジと提携した。


テルハイの学生たちは最近、ナトリウムの削減と風味の向上を強調するイノベーションの創出に挑戦。彼らは、Salt of the EarthのR&D技術者兼アプリケーション部長であり、Tel-Haiの食品科学の卒業生であるRakefet Rosenblatt氏によって指導を受けた。


「私たちは常に何を改善できるかを考えています。塩は既知の製品ですが、食品業界がそれをより良く活用するにはどうすればよいでしょうか。学生は素晴らしいアイデアを持っており、それらに投資するのは良いことです。」


あるグループは、海藻から特別なプロセスを使用して独特の強い風味と色を中和し、ミネラル豊富な塩製品を提案した。また別のグループは、ひよこ豆の粉とSalt of the Earth社のMediterranean Umami Boldという調味料をベースにした美味しいビーガンスナックを開発。


ひよこチップとテルハイの生徒たちの写真です。
ひよこチップとテルハイの生徒たち。(写真提供: テルハイカレッジ)

イスラエルの反対側、ラハット、ネゲヴの南部では、SodaStream、Netafim、Dolav Plastic Productsなどの地域に存在する7つの主要企業が、フードテック、アグテック、クリーンテックやインダストリー4.0において、IIAのInNegevインキュベーターの学術およびVCパートナーと協力。


「今年は私たちの運営の最初の年です。現在、私たちは主にネゲヴの提携企業の能力を活用してベンチャーの創出を行っています」と、InNegevの事業開発および投資担当部長であるAmir Tzach氏は述べている。


InNegevで検討されているフードテック・イノベーションの1つに、収穫後のセンサー技術がある。1つはバクテリアを検出し、もう1つはジャガイモの軟腐病を早期に検出して、腐敗が広がる前に悪いジャガイモを取り除くことができるようにするものだ。


代替タンパク質のホットフィールドでは、InNegevは藻類の生産を行っている南部の企業に注目しており、代替タンパク質生産のための施設を確保するため、地方の食肉加工工場を候補にしている。


InNegevの取締役会の写真です。
InNegevの取締役会とチーム。左上から:Yuval Lazi氏、Dror Karavani氏、Lilach Shushan氏、Zeev Miller氏、Dror Green氏、Ophir Golan氏、Noa Isralowitz氏;下:Assaf Yerushalmi氏、Kobi Liberman氏、Udi Arev氏、Amir Tzach氏(写真提供:Anat Levi Tzvi氏)

学術および非営利のフードテック

北部に戻ると、ハイファのイスラエル工科大学では9月にカラッソ・フードテック・イノベーション・センターが発足。


この施設は、工業生産の研究開発、スタートアップハブ、包装研究所、工業用キッチン、 試食および評価部門、教育訪問者エリアの役割を担う。


テクニオン・バイオテクノロジー・食品工学部の学部長であるMarcelle Machluf教授は、Covid-19のパンデミックは、「人類が生命を維持し、将来存在の課題に対処する上で、食品とバイオテクノロジーの重要性を顕著にしただけである」と言う。「健康的で手頃な価格の食品や革新的な医療へのアクセスなど、この分野の多くの課題に対処するには、新しいエンジニアリングツールと科学ツールの融合を可能にする高度なインフラストラクチャが必要です。」


Carasso Motorsの会長であるYoel Carasso氏と、テクニオン・バイオテクノロジー・食品工学部の学部長であるMarcelle Machluf教授の写真です。
Carasso Motorsの会長であるYoel Carasso氏と、テクニオン・バイオテクノロジー・食品工学部の学部長であるMarcelle Machluf教授。(写真提供:テクニオン広報担当者、Rami Sheloush氏)

テルアビブでは、イスラエルとインドの食品および新規食品、収穫後の貯蔵、代替タンパク質、食品安全、およびパッケージングのアグ・テックソリューションを成長させるため、イスラエルの非営利のStart-Up Nation Centralが、グローバルな起業家ネットワークTiEと提携した。


これまでのメンターシッププログラムに選ばれたイスラエルのスタートアップには、受賞歴のある複数のバッタタンパク質の生成を行うHargol、自動調理メーカーのKitchen Robotics、視覚ベースのロボットコントローラーメーカーDeep Learning Roboticsや貯蔵湿度制御ソリューションを製造するUmiGoが含まれている。



未来のために食糧不足と戦う

Start-Up Nation CentralのCEOであるAvi Hasson氏は、農家の人々はますます厳しくなる気象条件、環境汚染物質、土壌の枯渇に晒されていると言う。


Start-Up Nation CentralのCEOであるAvi Hasson氏の写真です。
Start-Up Nation CentralのCEOであるAvi Hasson氏。Vered Farkashの提供。

人口増加と製品需要の増加と相まって、これらの問題は食料安全保障に関する世界的な懸念を高めている。


「作物の収穫量を向上するか、機能的および栄養的価値が向上した食品を作り出し、保存、生産する可能性のある技術は、将来の食品の安定的供給を保証してくれます」とHasson氏は述べる。


The KitchenのZaidman氏は、この部門が成熟するにつれて、より多くのセグメンテーションが見られるだろうと予測。


「例えば、Aleph Farmsは、既存の技術が存在する前に、培養肉の研究を始めました。今後2〜3年で見られるイノベーションの多くは、この業界を支えるあらゆる分野にさらに特化したものになるでしょう」と彼は説明する。


「代替タンパク質は消費者の関心を集め始めたばかりなので、世界的に強力なトレンドとして継続するだろうと予測しています。乳製品、シーフード、卵に置き換わる食材には多くの可能性があります。」


ミネラル豊富な海藻で強化された塩は、テルハイカレッジで作成された革命的製品の写真です。
ミネラル豊富な海藻で強化された塩は、テルハイカレッジで作成された革命的製品(写真提供:Salt of the Earth)

Good Food Instituteイスラエル支部のビジネスエンゲージメントおよびイノベーションディレクターであるAviv Oren氏は、イスラエルには約100社の代替タンパク質スタートアップと学術機関で28の代替タンパク質研究所をがあると述べている。


最新のフードテックの1つであるAlfred’sは、肉、鶏肉、肉類似品、および培養肉産業向けの植物ベースのホールカットを製造するための革新的なプラットフォームを揃えている。


「イスラエルは現在、発酵および培養肉会社の総数で米国に次ぐ世界第2位を記録しています」とOren氏は述べる。


GFIイスラエルのマネージングディレクターであるNir Goldstein氏は、イスラエルの役割に大きな可能性があるとみている。


「現在生産する食品のわずか5%のみを輸出しているイスラエルは、この業界への手厚い政府の支援により、代替タンパク質の原材料と高度な生産技術の世界的なサプライヤーになる可能性があります」と彼は述べた。


情報提供:ISRAEL21c

テキスト:Abigail Klein Leichman