半導体の内部から、そのライフタイムを通じて継続的なモニタリングを行う先進的ソリューションを提供するイスラエル企業、proteanTecs。同社は2017年、エレクトロニクス産業の継続的な成長の実現という使命を持った半導体業界のベテランたちによって創設され、エレクトロニクスのモニタリングソリューションにおいて革命を起こし続けています。様々な業界の主要企業をクライアントとし、現在イスラエルに本社を置くほか、ニュージャージー、カリフォルニア、台湾にオフィスを構えています。
今回は、proteanTecs社の共同設立者兼CEOであるShai Cohen(シャイ・コーエン)氏に、自身の経歴や、同社の提供するオンチップモニタリングサービス分野の成長、ディープデータ分析と予知保全や、回復能力の重要性について語っていただきました。

ーーまず、ご自分の経歴についてお話しいただけますか?
proteanTecsの共同設立者兼CEOのシャイ・コーエンです。proteanTecsを設立する前は、サーバーおよびストレージ向けのエンドツーエンド InfiniBand およびイーサネット相互接続ソリューションの世界的リーダーであるメラノックス(NASDAQ:MLNX)を共同設立しました。2011年からメラノックスのチーフ・オペレーション・オフィサーを、それ以前はオペレーション・エンジニアリング担当VPを務めており、また2015年から2018年までは同社の取締役会メンバーでもありました。在籍中は、社内のすべてのオペレーションと生産を監督し、研究開発活動を共同で率いていました。
それ以前の1989年から1999年までは、Pentiumプロセッサ部門のシニア・スタッフ、およびキャッシュ・コントローラ・グループの回路設計マネージャーとしてインテル社に勤務していました。

ーーほんの数年前まで、オンチップ(※1)モニタリングの必要性について話している人は誰もいませんでした。貴社の技術が必要とされる背景には一体、何があるのでしょうか?
現在、大手のハイパースケーラー(※2)や自動車OEMが口を揃えて訴えるように、パフォーマンス、電力、信頼性を同時に最適化するソリューションが必要とされています。しかしデジタル化の発展に伴い、エレクトロニクスの変化にまつわる変動性、ダウンタイム、安全性に関わる問題は制御しきれないレベルとなりつつあります。
ロジック半導体の線幅が5nm~16nmのハイエンドプロセスから、更に3nm世代への幕開けとなった現代において、テクノロジーによる高い信頼性と品質を備えた膨大な機能要件をすべて満たしながら、チップやシステムを開発するのは非常に困難です。さらに、性能と消費電力の両方のバランスも気にしなければならないとなると、もはや不可能に近い話なのです。
そこで、すべてが完璧であることよりむしろ「困難をしなやかに乗り越え、回復する力」がキーとして重要視されるようになりつつあります。今日のソリューションは非常に高コストかつ、高い冗長性を有しています。そのため、正しい判断を下すためにアプリケーションを数回実行する必要がある場合、多大なコストと時間を要します。これはハードウェアのみならず、基幹アプリケーションのソフトウェアでも起こっていることです。

そこで、回復力を向上させるためのより良い方法があるはずだと考えました。膨大なデータを所持し、それらを解析するというコンセプト自体は新しいものではありませんし、むしろデータを解析するだけでは不十分で、データだけでは正しい意思決定ができない可能性があります。
勿論、解析には基礎となるデータが必要ですが、要となる適切なデータがなければ不透明な部分が多すぎますし、結局のところ、データセンターは稼働し続け、自動車は安全であり続けなければなりません。
2017年の当社設立時、このディープデータ解析のコンセプトに辿り着きました。当初、まず自動車市場で採用されることを想定していましたが、現実に当社ソリューションを最初に採用したのはデータセンターでした。
当社は現在、特に自動車分野で躍進を果たしており、モバイルや通信など他のアプリケーションにも急速に進出しています。つまり、ディープデータ・ソリューションの恩恵を受けられる市場が非常に幅広いことを示しています。
ーーそれら大量のデータを、ローカルで処理できるかどうかが課題のひとつになると思いますが。
その通りです。オンチップ・モニターであるエージェント(IPで提供するモニタリング用組込み回路)を含む、当社の多層ソリューションによりこのデータが生成されると、機械学習アルゴリズムがそれを理解し、最後にクラウド上のソフトウェアを使って意思決定につながる情報を解析することができます。
例えるならそれは、エッジに位置し、データを意思決定ポイントに可能な限り近づける手助けをするプロキシソフトウェアのようなものといえます。エッジ・デバイスにはテスターや、ECU、サーバー、スイッチなどさまざまなものがあります。ソフトウェアには測定やデータ収集に基づくモデルが搭載され、さらに高度なデータ解析も行われます。
当社のクライアントは、こうしたモデルをエッジソフトウェアに対応することで、インラインでの異常値検出や電力削減など、テスト段階においてほぼリアルタイムの意思決定を行うことができます。また、システムが現場にある場合は、継続的な診断のために、しきい値に対する性能をモニタリングすることができます。例えば自動車であれば、アプリケーションに過大なストレスがかかっているかどうか、あるいはハードウェアに潜在的に危険な状況があるかどうかなどを追跡することができます。
ーー実際に問題となる前に潜在的な問題を特定することを目的とした、予測解析ができるということでしょうか。
はい、エッジ・ソフトウェアとクラウド解析によって、予測的判断にモデルを対応させることができます。しかし、それは実際の測定に基づく予測であり、故障までの時間を計算したものです。また、故障の物理的な原因と相関しているため、根本的な原因を簡単に見つけることができます。
故障を予測することで、サービス・プロバイダーは予知保全や処方的保全を行うことができます。この処方的保全ため、当社はソフトウェアにもうひとつの要素を加えました。
これらのアプリケーションは、既によく知られているAVS(アダプティブ・ボルテージ・スケーリング)やDVFS(ダイナミック・ボルテージ・フリークエンシー・スケーリング)などからはじめることができます。AVSやDVFSは、より広範なパラメーター設定に基づくことが可能であるため、より正確で信頼性の高い方法で現場に導入できます。
今日、全体的な精度、安全性、信頼性の観点から、基幹アプリケーションで電圧や周波数を絞ることは一般的ではありません。しかし、ディープデータ解析から得られる意思決定につながる情報に基づいて、安全な方法で電力を削減し、パフォーマンスを向上させることは可能です。
ーーデータの粒度を上げれば、さらに多くのことができるようになるのでしょうか?
データの粒度を上げ、データの種類を増やすことで可能となります。その両方が揃えば、今日一般的である予防的保全(事前にスケジュールされた保全)から予知的保全、さらには処方的保全へと移行させることができ、さらに性能とパワーを向上させながら、寿命の延長を実現するための測定も提供できるようになります。
当社のエージェント(IPで提供するモニタリング用組込み回路)はソフトウェアと対話することができます。ハードウェアを適切な性能、寿命、電力に絞っていくためだけの手段ではなく、チップ内部で起こっていることがすべて可視化されるため、ハードウェアを最適化し、さらに活用することを可能とします。
ーーそのためのパートナー企業を含め、貴社のエコシステムについて教えてください。
当社エコシステムは成長しており、ディープデータ分析やライフサイクル・モニタリングに関する議論や開発は、今後さらに活発化していくでしょう。社内では既に、その変化に対する心構えができています。
また、この市場に参入する企業も増えており、これは市場が伸びている証拠でもあります。このまったく新しいカテゴリーを立ち上げた当社は、チップの誕生から現場での応用まで、エンドツーエンドの総合的なソリューションを提供しています。

ーーセキュリティ侵害や異常な活動を検出するために、インチップモニタリングを適用する計画はありますか?
当社は、チップから発信される数多くの情報には、サプライチェーンのセキュリティ目的に使用できる署名、つまり固有のIDを抽出することができます。またクライアントの協力を得て、偽造品検知とデバイス認証のためのソリューションを開発しています。
あとは、この技術をどの市場で拡大できるかです。はじめにお話したとおり、当社が取り組んでいる主要市場における需要の大きさは計り知れません。今後数年でさらに当社事業を拡大できると信じています。
ーーチップ内部から利用可能なデータはたくさんあります。そのデータをリアルタイムに近い早さで利用するために、レイテンシ(遅延時間)はどの程度影響するのでしょうか?
当社ソリューションは、最初からレイテンシを考慮しています。チップから送信されるデータ量は非常に少ないため、必要な帯域幅はごくわずかで、待ち時間の影響もありません。 当社では、PPA(パワー、パフォーマンス、エリア)への影響を最小限に抑えてエージェント(IPで提供するモニタリング用組込み回路)を追加することを最優先事項としています。そうでなければ、実装は非常に難しいですから。エッジやクラウドに流れるデータ量も最小限に抑えています。
ーー貴社の技術を、先進的パッケージ(※3)の中で使うことは可能ですか?
これは何年も前から既に言われてきたことであり、現実に2.5Dと3Dのパッケージングは実現しつつあります。1991年に、MCM(マルチチップモジュール、※4)を取り扱ったことを覚えていますが、まるでその時のように、今の業界は多岐にわたる高度なパッケージ技術を採用する必要性に迫られています。当社にとってこれは大きな追い風となります。
proteanTecsは以前、ユニバーサル相互接続の新しいオープン業界標準であるUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)コンソーシアムに参加しました。当社の成長著しい製品のひとつに、チップレット間のすべてのバンプ(突起電極)の品質を測定する相互接続モニタリングソリューションがあります。
先日、GUC との共同研究の一部を、シリコンにおける結果を掲載したホワイトペーパーで発表しました。当社の相互接続モニタリングエージェントはGUCのPHYに統合されており、チップレット間のダイ間相互接続の品質を、テストと実運用においてきめ細かく測定することができます。 こうして全体を相互に接続することで、突然全体像が見えてきます。さもなければ、何千ものバンプがありますし、基本的に内部で何が起こっているかはわかりません。先進的なパッケージングでは、それは逆に非常に高コストとなるリスクとなり得ます。
ーーここで、先ほどお話しいただいた「回復力」が問われるわけですね。チップの角に配置されるバンプが最大の応力を受けると思いますが、故障を予測できればデバイスの動作を維持するための対策を講じることができるという訳ですね。
はい、その通りです。相互接続という観点から言うと、この技術は製造中や動作中にデータに最適なレーン(※5)を選択するために適用され、リセット時にはレーン修復を行うことができます。これは、すべてのバンプに超小型デジタルスコープをつけて、すべてのレーンの完全な特性評価を行うようなものです。
データと、そして十分なソフトウェアがあれば、電気的パラメータだけでなく、電気機械的パラメータの特定も可能です。これらのパッケージの一部は自動車に搭載されています。問題の初期兆候があれば、交換を予定することもできるでしょう。しかし、先に述べたように、「回復力」を持たせるにはハードウェアの面でもスペースの面でも高コストとなります。
ーーこれは、冗長性における問題点のひとつですよね。
そうですね。2.5Dや3Dの推進は、低コストで回復力を実現するための動きなんです。特定のソリューションを決定する前に、さまざまなテクノロジーを1つのパッケージ内で組み合わせてコスト計算を行うことができるためです。
冗長性は常にあります。しかし、完全な冗長性ではない。例えば、何百もの演算素子を持つような大きなAIマシンを見てみたとしたら、そのうち1つか2つを取り除くことができるかもしれません。 当社のアプローチは、非常に高いレベルの信頼性を得ることができるにも関わらず、冗長性がなくてもシステムを最適化できるというものです。しかし、例えばダイ間の接続性においてローカルな冗長性を持たせることは重要ですが、そのためのシングルソリューションはありません。当社は、比較的安価で、的を絞ったソリューションを可能にします。
ーー顧客ベースに変化はありましたか?異なるタイプの会社との取引はありますか?
まず、当社の技術は非常に多くのアプリケーションに貢献できるものであり、協業する企業は限定されません。しかし、解析分野や相互接続のパートナーなど、より多くのコラボレーションを期待しています。最終顧客であるサービス・プロバイダーが自社の製品から最大限の可視性と推奨される対応事項を引き出せるよう、エコシステムの中でより多くの人々との協力を開始しています。
ーー今後の展開について教えてください。
当社は設立5年目を迎え、従業員数はこの1年で倍増しました。マクロ経済には一定の懸念がありますが、多くのセグメントで当社のソリューションに対する需要が高まっていることは確かです。市場を牽引し、それを実行し続けることが当社の役目だと思っています。
※1:マイクロプロセッサ、チップセット、ビデオチップ、メモリーといった、装置やシステムの動作に必要な機能のすべてを、一つの半導体チップに集積したものを指す。
※2:拡張可能なクラウド・アーキテクチャーや、コンピューティングやストレージなどのサービスをグローバルに提供する大規模なクラウドサービスプロバイダーを指す。
※3:繊細なICチップを外部環境から保護し、プリント配線板に実装する際の外部接続配線端子を提供する役割を果たす。
※4:基板の上に、ベアチップと呼ばれるむき出しのシリコンチップを複数個を搭載したモジュールのことである。 立体的構造がとれるので、従来のパッケージよりも面積を節約することができる。
※5:送信側を意味する Tx と 受信側を意味するRx 用の回路が、 1つの束になっているもの。

proteanTecsは、先進的エレクトロニクスをモニタリングするためのディープデータ分析のリーディングカンパニーです。データセンター、自動車、通信、モバイル市場のグローバルリーダーから信頼されており、生産からフィールドに至るまで、システムの健全性と性能のモニタリングソリューションを提供しています。
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