新型コロナウイルスパンデミックの影響で世界が影響を受ける中、イスラエルでも断続的なロックダウンを余儀なくされました。新しいビジネスモデルに迅速に適応するための資本とインフラが不足している多くの中小企業では、営業活動を維持するのに苦労しています。
特にイスラエル都市部では、感染のリスクを回避するため、多くの人々がオンラインで買い物をしたため、中小規模の小売店などでは客足の急激な減少に伴い、大幅な収益の減少となりました。
目次
地域経済を救う仮想通貨プラットフォームColuとは?
イスラエル・テルアビブに本部を置くテックスタートアップのColuは、地元での買い物、ボランティア活動、イベントへの参加など、地域への様々な貢献活動につながる行動をした都市居住者に報酬を与えることで、まちづくりに対する市民参加の促進を支援してきました。 2014年に設立されたColuは、自社の仮想通貨プラットフォームである都市のコインシステムを利用して、住民に地域経済活性化への積極的な参加を促し、都市の人々、企業、機関を結びつけています。
3月中旬に始まったテルアビブ(およびイスラエル全体)での部分的なロックダウンの中、Coluはアプリの報酬プログラムを通じてテルアビブ地域の経済回復に貢献しました。 その結果、3月17日から31日にかけて、中小企業の収益は145,000ドル(約1,534万7,163円相当)に達し、5月までの総経済効果は約400万ドル(約4億2,337万円相当)にも上りました。同社によれば、事業者は経済活動の約30%がColuのユーザーからで、市の投資に対する投資収益率は約8.7倍であると報告しています。
「Coluの使命は、都市が真の可能性を解き放ち、個人に力を与え、人々が互いに繋がりを感じることができる場所になるだけでなく、人々が大切にしている価値観を形成し、市民のコミュニティ意識の醸成を支援することです。」 と、Coluのグローバルビジネス開発マネージャーであるElad Erdan(以下、Erdan)がNoCamelsに語りました。
「スモールビジネスは、私たちが都市と呼ぶこのエコシステムにおいて非常に大きな役割を果たしていると感じています。なぜなら、スモールビジネスは、雇用を生み出す場所や人々がたむろする場所であるだけでなく、都市に個性を与える場所でもあるからです。」
Coluの開発したアプリは、地元でのショッピングからリサイクル活動、公共交通機関の利用に至るまで、都市の活力を維持するような市民としての行動に対して居住者にインセンティブを与えます。特に、Coluのアプリにある「アーバンストーリー機能(Urban Story Feature)」を通じて、その都市についてより深く学ぶことができます。例えば、行政としての取り組みやプログラム、その土地に根差したローカル企業や熱意のあるビジネスオーナー、都市の多様性に貢献している文化的遺産やコミュニティ組織などが良い例です。
ローカル企業を更新するために、Coluは事業者を直接アプリにオンボード(※)を行います。事業者は、Coluの都市コインを通貨として受け入れることができ、1か月に数回、リアルマネーに変換することができます。
(※オンボード:ユーザーにプロダクトの価値を伝え、長期的に利用してもらうように促すプロセス)
「私たちは事業主にオンボーディングを行い、彼らのビジネスのカスタマーサポート役も担っています。そして、彼らが自社のストーリーを広げながら、より多くの顧客を獲得できるようなマーケティングプラットフォームとしてこのアプリを活用しています。」とErdanは言います。
Coluは、都市が地域経済を活性化するのを支援するため、次のような計画を立てています。
1)Coluが自治体と協力して、SWOT分析を実施
2)カスタム通貨を使用した特殊なアプリを作成
3)地元企業の事業主とスポンサーがアプリにオンボードされ、その後アプリが起動
4)地域住民はアプリをダウンロードし、市民参加の取り組みを通じてコインを貯めることが可能になる
5)地域住民は、貯めたコインを市内のColuアプリに登録されているローカル企業・店舗で利用することが可能になる
なお、このアプリ上では、登録企業の投資収益率、割り当てられた報酬とコスト、アクティブユーザー、認知度に関する統計などもデータとして見ることができます。
このアプリには、地域貢献活動の代わりにコインがもらえるコイン報酬システム、アプリ内で設定されているアクティビティ・チャレンジなど、何かを達成した際にカスタムグラフィックスでお祝いしてくれる機能など、ゲーミフィケーションの要素が取り入れられています。また、一例として「The Girl Power Challenge」などのチャレンジが組み込まれており、女性オーナーが経営する店舗や事業で地域住民がショッピングをし、追加のコインを獲得する動機付けになります。
パンデミックが続く中、Coluは都市がColuのサービスを利用することで、世界的な健康危機の課題に対処する方法を5つ挙げています。
まず第一に、よりスマートな危機コミュニケーションで正確な情報や行動方針を伝えるということ。
第二に、緊急対応の目的で、住民からボランティアのデータと情報を収集すること。
第三に、住民がボランティアを行い、救援活動を支援することを奨励すること。
第四に、危機に備えて、住民が必要な食糧や飲料など積極的に確保するよう事前準備を奨励すること。
第五には、コミュニティと中小企業の経済回復を支援することです。
すべてColuのアプリサービスを使うことで実施することができ、世界的な健康危機の課題に対応することができるとColuでは考えています。
テルアビブでの成功事例
Erdanによると、仮にAmazon での購買の15%がローカル企業での商取引であった場合、その地域のスモールビジネスの収入は1,760万ドル(約18億5,987万円相当)増加し、市の収入は年間8.8万ドル(約930万円相当)増加する計算になります(人口約20万の都市の場合)。
これを念頭に置き、Coluはテルアビブにあるヤッファ地区のエルサレム大通り沿いの都市再生化に目を向けました。この地域では、現在進行中の路面電車の建設の結果、客足が遠のき、1週間に5店舗のペースで閉店を余儀なくされていました。
道路閉鎖の影響を受ける100以上の中小企業とColuは、テルアビブ自治体やテルアビブ財団のような他の主要機関と提携して、地域経済を後押ししました。テルアビブコインを使用して、Coluはこの地域でのすべての購買の利益として30%のキャッシュバックを事業主へ提供し、テルアビブ自治体によって資金提供された150,000ドル(約1,584万円相当)の報酬予算をこのキャッシュバック費用に充てたのです。
「この『システム』は循環型経済を構築する方法であり、最終的にお金は都市に還元されます。そのため、都市はこの資金をマイノリティや、街を散策したり、バスで旅行するなどの社会的利益を促進するさまざまな活動に活用することができます。」と、Erdanは語ります。
アメリカの都市活性化にも挑戦中 – アクロンイニシアチブ
今年の初め、Coluは米オハイオ州アクロン市とAkroniteと呼ばれるカスタムアプリでパートナーシップを結びました。市の硬貨の代わりに、このアプリでは『Blimps』を使用します。これは、アクロン発祥の『Goodyear Blimps』という航空機のモデルから触発されました。アクロンはかつて米国で最大のおもちゃメーカーの産業地帯であったため、アプリの多くの要素もおもちゃに触発されています。
アクロン市の統合開発局のイノベーション&アントレプレナーシップアドボカシーを専門に担当するHeather Roszczyk氏(以下、Roszczyk)によると、アクロンのメインストリート沿いの多くの中小企業が、イスラエル・ヤッファのエルサレム大通りと同様の大規模な建設プロジェクトの結果、経営に苦しんでいます。
「オハイオ州北東部のパンデミックの真っ只中で、私たちは周辺の企業が営業停止をせざるを得ない状況を目の当たりにしました。そして、これらのビジネスを助けるために私たちができることについて非常に多くの懸念がありました。」とRoszczykは話します。
「Coluには、他の都市での実証された実績と、すぐに利用できる製品があります。彼らの都市再生化ビジネスを可能な限り早く試してアクロンを支援するため、非常に迅速に取り掛かることができるわかっていました。」
テルアビブと同様に、Coluはアクロンの多くの中小企業をAkroniteアプリ上で紹介をし、市民の地域貢献活動に対するインセンティブを通じてビジネスを促進し続けています。 Erdanは、「各事業部門は、様々なキャッシュバックとベネフィットの仕組みづくりだけでなく、地元の事業主とのコミュニケーション機能も持つ」と語りました。
Coluは今後、黒人が経営する企業からLGBTQコミュニティを宣伝するショップまで、Akroniteアプリを通じてマイノリティが経営する企業のプロモーションを行う予定です。
「たとえば、女性の歴史月間では、女性が経営するビジネスでショッピングをした場合、特別な報酬を与えることができます。このアプリには、女性やマイノリティ等といった特定のセグメントを強調するため、あらゆる種類のカスタマイズ可能なオプションがあります。」とRoszczykは説明します。
Akroniteアプリは現在ベータ版ですが、トライアル期間中にRoszczykは「非常に好意的な反応を得た。」と述べています。 Akroniteは7月末までに完全に公開される予定で、アクロン市はこのアプリのローンチと報酬プログラムのサポートに60,000ドル(約635万円)を投下します。このアプリは、まずアクロン市のダウンタウン、そして近隣の大学から発売されます。
COVID-19に対する経済措置。その方法は持続的なのか?
COVID-19の対応として、世界各国では様々な経済救済措置が取られています。例えば、米国では、コロナウイルスの援助、救済、経済的安全保障(CARES)法が2兆ドルの経済刺激法案として可決されました。 CARES法により、事業継続が困難になった多くの中小企業の破綻を防ぎましたが、これらの資金の多くは、居住者の消費活動を促進することなく、ローンまたは助成金として直接地元企業に送られました。
「問題は、これらの種類の助成金が実際には1回限りの資金援助であるため、過去数か月間で失った収入を取り戻したにすぎないということです。しかし、こうした助成金を長期継続的に生成したり、生み出すような取り組みは現在みられていません。Coluのアプリは『その地域での消費活動と中小企業の救済に焦点を当てている』という点で特別です。」と、Erdanは語っています。
「COVID-19によりさまざまな産業が打撃を受けましたが、特にレストラン、映画館、美容および化粧品店などの地元の企業、これらの業種の企業は深刻な被害を受けています。私たちが現在行っている活動は、彼らの営業再開時に住民が街へ足を運ぶことを促すと同時に、コミュニティ意識の感覚を育んでいくことなのです。」