「自分はどこに属しているのか」「家とは何なのか」。そんな普遍的な問いを、自身の人生をもとに一本の映画へと昇華させたイスラエルの映画監督、Reut Ackerman(レウート・アッカーマン)。脚本を書き始めてから7年。初の長編映画『Home!』が完成しました。脚本、監督、そして主演まで自ら務めた本作は、オフィール賞の作品賞、監督賞、演技賞の3部門にノミネート。しかも彼女にとって、これが初めての長編監督作品です。

35歳、仕事を辞めて脚本を書き始める
映画への道が始まったのは、アッカーマンが35歳のときでした。
それまで続けていたウェイトレスの仕事を辞め、「1年間で初めての長編脚本を書き上げる」と自分自身に約束します。そして実際に1年で最初のドラフトを完成。自らガリラヤ映画基金に応募したところ、驚くことに映画制作のための資金を獲得しました。
当初は「1年、長くても2年で撮影できる」と考えていたそうですが、完成までの道のりは想像以上に長いものでした。
しかし今振り返ると、制作の遅れや何度も突きつけられた「NO」も、すべて必要な時間だったといいます。その時間があったからこそ、作品を成熟させ、自分自身のクリエイティブな言語を見つけ、映画を作る自信を育てることができたのです。

養子として育った自らの人生を物語に
『Home!』の物語の原点にあるのは、アッカーマン自身の人生です。
彼女は養子として育ちました。映画では、主人公アミットが自身の養子縁組に関する記録を開くことをきっかけに、養家族と生物学上の家族、現在の自分と「そうなっていたかもしれない自分」の間で揺れ動いていきます。
アッカーマン自身、この経験をひとつの物語として捉えられるようになるまでには長い時間が必要だったといいます。
彼女が描きたかったのは、養子という境遇そのものだけではありません。その先にある「帰属」と「孤独」です。
家族がいても孤独を感じることがある。自分がどこに属しているのかわからなくなることもある。そうした感情は、養子として育った人だけのものではなく、多くの人が人生のどこかで経験するものです。
彼女自身がたどってきたのは、「自分の内側にある家」を見つけるための長く曲がりくねった旅だったと語っています。

夫婦だから生まれた、親密な映像
この非常に個人的な物語を映像にしたのが、撮影監督であり、アッカーマンの夫でもあるAlon Lutzki(アロン・ルツキ)です。
長回しや印象的なカメラワーク、鏡やフレーミングを巧みに使った構図など、『Home!』には独特の映像表現が随所に見られます。それは最初から決められたスタイルではなく、夫婦で話し、想像し、試行錯誤する中から生まれていきました。
監督でありながら自らカメラの前に立つアッカーマンにとって、最も信頼する夫がカメラの後ろにいることも大きな支えになりました。その関係性が、彼女の演技に自然で親密な空気をもたらしたといいます。
映画作りの7年間には、意見がぶつかることもあれば、ひとつのシーンの撮り方を発見して喜び合う瞬間もありました。
「溺れるか、せいぜい泳げるくらいだと思っていた。でも実際に飛び込んでみたら、私たちは踊っていた」
アッカーマンは、夫との映画制作をそう振り返ります。

「初めて」は、一度しかない
アッカーマンは映画学校で映画制作を学んだ経験がありません。
だからこそ、自分にはある種の自由があったと考えています。
制作中、彼女が何度も自分自身に言い聞かせていた言葉があります。
「何かを初めてできるのは、一度しかない」
間違えてもいい。試してもいい。大切なのは勇気を持って進むこと――。その姿勢が、『Home!』という作品の自由で個人的な表現につながっています。
そして、この物語はここで終わりではありません。
『Home!』は、アッカーマンが構想する三部作の第1作。ロニット&シュロミ・エルカベッツによる三部作に触発され、同じテーマでつながった3つの物語をいつか作りたいと考えてきました。
自らの人生から始まり、「家」「帰属」「孤独」という誰もがどこかで向き合う問いへ。
7年という歳月をかけて完成した『Home!』は、レウート・アッカーマンにとって、自分が帰るべき場所を探す旅の始まりなのかもしれません。
*本記事はイスラエルメディアPortfolioの報道をもとに構成しています。


