
イスラエルの世界遺産をご紹介するシリーズ第7弾。
今回ご紹介するのは、2012年に世界文化遺産に登録されたカルメル山の「ナハル・メアロット / ワディ・エルムガーラ渓谷の洞窟群」。
50万年にわたる人類の進化を示す、南西アジアの初期人類の暮らしが見られる遺跡を、詳しく掘り下げていきましょう。
イスラエル北部に位置するカルメル山地域の西斜面には、50万年にわたる人類の進化を示す南西アジアの初期人類が暮らしが見られる遺跡が存在。
この地には、ネアンデルタール人や旧石器時代から中石器時代の洞窟が並び、狩猟採集生活から農業や牧畜への移行期を示す痕跡が見受けられます。
人類の進化を示すカルメル山の遺跡群「ナハル・メアロット / ワディ・エル=ムガーラの洞窟群」とは?
カルメル山とはイスラエル北部に位置する、南北39kmにも広がる丘陵地帯。
かつてこの地は、アフリカからユーラシア大陸の玄関口でもあり、丘の西側には旧石器時代前期から現代まで50万年にわたる人類の進化を示す遺跡が点在しています。「ナハル・メアロット」とは、ヘブライ語で「洞窟の渓谷」という意味。
アラビア語では「ワディ・エル=ムガーラ」と呼ばれ、タブーン、スフール、エル=ワド、ジャマルという4つの洞窟があります。
最も古いのは、なんとネアンデルタール人の一種とされるタブーン人が50万年前に住んでいたタブーン洞窟。
旧石器時代である、ムスティエ文化期(25万〜4万5000年前)の大変貴重な出土品も、ここから発掘されています。
また、この地には地中海における中石器時代にあたるナトゥフ文化期(1万5000〜1万1500年前)の痕跡や人骨が発見されたエル=ワド洞窟が存在します。
90年以上も研究が続けられるとともに、人類の発展における重要な時期が多く見受けられるため、南西アジアにおける猟採集生活から農業や牧畜への移行期を示すものとして、とても貴重な遺跡といえます。

人類の進化を示すカルメル山の遺跡群が世界遺産に登録された理由とは?
さて、カルメル山の遺跡群。なぜ、世界遺産に登録されたのでしょう。
その理由は、大きく分けて2つ考えられます。
ひとつ目が、50万年に渡って人類の進化を示す洞窟群は、ムスティエ文化からナトゥフ文化までの進化の時系列が見られるという点。
そして、もうひとつが、旧石器時代から新石器時代のへの生活様式の変化が見られる洞窟群は、狩猟採取社会から農業や牧畜への適応を示すという点。
そんなナハル・メアロットに点在する4つの洞窟には、人骨や生活の痕跡が残っており、旧石器時代から新石器時代まで50万年間の人類の足跡が見られます。
狩猟社会で生きてきた人類が、農耕や牧畜などへの生活に移行するといった進化が見られるという点で、世界的にも高い評価がされている本洞窟群。
ちなみに、カルメル山は聖書に登場する預言者エリヤが、フェニキアのバアル神の預言者と対決して勝利した場所として、キリスト教の聖地となっています。
そのため、19世紀以降は熱心なキリスト教徒であるドイツ人が多く移住していたため、近隣のハイファの近代化に影響があったといわれています。

様々なストーリーが存在するカルメル山の「ナハル・メアロット / ワディ・エルムガーラ渓谷の洞窟群」。
こうした極めて稀な状況がしっかりと残されていることも、世界遺産登録の決め手になったのだと考えられています。
イスラエルには、日本ではあまり知られていない世界遺産がまだまだあります。
次回もお楽しみに。


