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CULTURE

日本で30年間暮らす中で再発見したユダヤ人としての自分

独占インタビュー|リアン・若林(アーティスト&ジャーナリスト)

by クニコ コーヘン |2022年07月08日

日本に30年在住された経験を持つ、ユダヤ人アーティスト&ジャーナリストのリアン・若林(Liane Wakabayashi)さん。日本人の夫と2人の子供と一緒に日本で生活する中で、習慣や宗教概念を学び、自身のユダヤ教についても追及しました。20年前には「Genesis Art Intuitive Academy」を設立し、現在はイスラエルで「Genesis way」と呼ばれる心の中の思いをアートで表現する方法を指導しています。


ユダヤ人アーティスト&ジャーナリストのリアン・若林(Liane Wakabayashi)さん

2021年には、自身の結婚生活を綴った自叙伝「The Wagamama Bride(わがままな花嫁)」を出版したリアンさん。今回はリアンさんの全貌に迫ります。


ユダヤ人アーティスト&ジャーナリストのリアン・若林(Liane Wakabayashi)さんが2021年に出版した「The Wagamama Bride」

 ――― 出身はどちらですか?またなぜ日本で暮らすことになったのでしょうか?


私はモントリオール生まれのニューヨーク育ちです。ジャーナリストとして活動している中で、1985年にコロンビア大学から、1950年代にコロンビアに派遣された日本人フルブライト奨学生6名の卒業生が行方不明になった件に関して、日本で調査をし記事を書くよう依頼を受けました。そしてこの旅が、私の人生を大きく変えるものとなったのです。日本の文化を西洋の人々に紹介することに喜びを覚えた私は、1987年から東京のジャパンタイムズで働くことになり、日本には1年間住む予定だったのですが、結果として30年間住むことになりました。


―――1年間の予定が30年間ですか!日本で暮らし始めたとき、感じたことはありますか?また家族の反応はいかがでしたか?


日本で見たもの全てに感動しましたね。例えば、東京で地図を片手に私が道に迷っていた時、通りすがりの日本人の方が声をかけてくれて、親切にも目的地まで連れて行ってくれました。私はこんなにも親切な日本人についてもっと知りたい、そして彼らのように親切になりたいと思ったものです。家族は日本やアジアに行ったことがなかったので、私が日本で生活すると決めた時はとても驚いていましたが、私の決断を受け入れてくれました。やはり最初は非常に心配していましたね。しかし家族が来日した際に、日本の洗練さや美しい自然、私の親友たちを実際に目にしたことで、なぜ私が日本に住むことを決めたのか理解してくれました。


リアンさんの家族
リアンさんの家族 ロンドン2016年

―――日本でタオイズム、禅、仏教学などを学ばれたそうですが、どのように学ばれたのでしょうか?


著書「The Wagamama Bride」にも書いたように、ジャパンタイムズで働いていた時に禅僧にインタビューする機会があったのですが、そこで道教の巨匠からタオイズム、禅や瞑想、気功、そして自然食を体験する機会があったのです。そしてその後、東京で有名かつ最古の東洋医学クリニックの一つである赤ひげ堂の弟子の男性と出会いました。実は彼こそ現在の夫なのです。夫に出会う前は別の宗教は知りませんでした。家族になった後、理解し始めました。結婚生活の中で、彼の道教の世界と哲学が徐々に私を開眼させました。その後、どのようにしてユダヤ人としての自身を意識するようになったのかは本に書いてあるので、ぜひ読んでみてください。


―――なるほど。日本人と結婚して日本で生活する中で、ユダヤ人としての葛藤はありましたか?改めて自身のユダヤ教を追及し始めたのはなぜですか?


ユダヤ人としての葛藤はありました。始まりは、私が母親になった時です。ユダヤ教では、ユダヤ人の母親から生まれた子どもはユダヤ人とされており、私は日本人の母親になることは決してできないことに気づきました。そしてそれと同時に、ユダヤ人としての自我に目覚めたのです。ニューヨークに暮らしていた頃、私の家族は保守派ユダヤ教でしたが、私は熱心な信者ではありませんでした。しかし私の両親がユダヤ人の魂を私に引き継いだように、私も母親として娘や息子にユダヤ人の魂を引き継ぐ機会が与えられたのです。


2000年にハバド・ハウス(ユダヤ教正統派会堂)が2軒とハシディズムセンター(ユダヤ教超正統派)が2軒設立され、東京在住のユダヤ人は大喜びでしたが、当時東京のシナゴーク(ユダヤ教会)は広尾のJCC(ユダヤ教コミュニティセンター)だけでした。私はありがたいことに、そこでユダヤ人の慣習や信念などについて深く学ぶこととなったのです。


―――ところでご主人とはどのように出会ったのですか?またユダヤ教に対してどんな反応でしたか?


結婚式の様子
結婚式の様子

彼との出会いは赤ひげ堂でした。私が患者として赤ひげ堂を訪れた際、彼が指圧研修生として治療をしてくれたのです。とても魅力的な人だったのですが、彼は英語があまり得意ではなかったので、彼の師匠が診断の際に通訳として立ち会ってくれました。これが馴れ初めです。


彼はユダヤ教に対して非常にオープンかつ信仰的な人で、宗教が一つの神に繋がっていることを理解していました。私たちはよく信仰的な世界や、人生を豊かで満足させるものについて話し合いましたね。自然の中を歩き、シンプルな幸せ、自然食、瞑想、気功、老子やラバ・アキバ(紀元1世紀末~2世紀ユダヤ教最高律法学者の一人)の哲学などを話すことで、強い繋がりとなったのです。


リアンさんとご主人 長男の誕生儀式にて
リアンさんとご主人 長男の誕生儀式にて

―――そうだったんですね。日本ではどのような出会いがありましたか?


一つ目は、日本在住の外国人との出会いです。これまで会ったことのなかった国の方々ですが、日本に住み、文化を学ぶ姿は私を刺激しましたね。日本にいる外国人の一人一人が架け橋になっていると感じました。また日本での経験をお互い共有することで、血の繋がりはなくとも真の家族のようになれるのだと思いましたね。


二つ目は、生涯の友人となる日本人たちとの出会いです。特に体制に囚われず、国境のない世界を求める人たちと親しくなりました。


リアンさんと日本の友人たち
リアンさんと友人たち

―――国境のない世界とは素晴らしいですね。それでは、リアンさんが創設した”Genesis Art Intuitive Academy”についても教えてください。


2000年、世田谷グローブやピンクカウなど、東京で人気のあるカフェでのワークショップとしてジェネシスアートは始まりました。ここで教えている「Genesis way」とは、アートで心の中の思いを表現する方法です。この方法では、年齢問わず誰もがインナーアーティストとしての創造性を広げることができるのです。





―――お子さんが2人いらっしゃるとのことですが、現在何をされていますか?


イスラエルの高校を卒業し、現在20歳になる息子のセイジは、コーシャフード(ユダヤ教の戒律で食べてよいとされるもの)に関する日本ーイスラエル間の輸出入スタートアップビジネスの設立に携わっています。これには、東京で有名なハバド・ラビ・ビニョミン・エデリー(Chabad Rabbi Binyomin Edery)の助けがありました。ちなみに彼は英語、日本語、ヘブライ語の3か国語を話すんですよ。娘のミリアム・未来はモザイク画家です。またステンドグラスアートも始めました。元々日本から遠い場所に住みたいと思っていませんでしたが、現在私と一緒にイスラエルに住んでいます。イスラエル在住6年目を迎える今では、イスラエルととても気に入っています。


リアンさん家族
リアンさん家族

―――素敵なお子様たちですね。ではなぜエルサレムに住むことになったのでしょうか。


2017年の夏に、エルサレムのウルパン(ヘブライ語教室)で学ぶために、短期滞在予定でイスラエルに来たのですが、突然娘が神経衰弱を起こしてしまい、緊急入院となりました。その時、イスラエルの治療レベルがとても人道的であることを知ったのです。イスラエルでは、精神疾患について話すことに問題はなく、恥ずかしがることはありません。ですので、娘が療養、そして成長するためにイスラエルは大変良い社会だと思いました。そこで私は、ウルパンが終了後も日本に戻らず、エルサレムにアパートを借りる決意をしたのです。その1か月後に息子も加わり、Naale Eliteと呼ばれる素晴らしい高校学習プログラムに受け入れられることになりました。またエルサレムには、東京のハバド・ハウスとの繋がりで、ユダヤ人と日本人の家族が何組かいます。彼らは私たちをとてもあたたかく、まるで家族のように歓迎してくれて、安息日には、本物の家族のようにお互いの家で一緒に夕食を取りました。これがエルサレムに住むことになった理由です。


イスラエルに住むことは、とてもスピリチュアルです。崇高なもの、馬鹿げたもの、孤独なもの、友人や見知らぬ人の愛に包まれる気分など、ここでは毎日様々な出来事が起こります。私の身体の全細胞が完全に生きていると感じることができる国、それがイスラエルなのです。




今回インタビューの前に彼女の自伝を読んでいたのですが、インタビューでお話を伺うことで、国民性や宗教の違いによる彼女の葛藤や喜びを深く理解することができました。この本”The wagamana bride” の名前の深い意味は利己主義という意味ではなく、リアンさんが家族の為、娘、息子のために必然的に立ち上がり、取った決断をいうのです。是非、この本を読んでみてください。

貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


リアンさんとエルサレム市長モシェ・リオン氏
リアンさんとエルサレム市長モシェ・リオン氏

リアン・グランバーグ・ワカバヤシ
ジャーナリスト&アーティスト
1987年 ニューヨークから東京に滞在
1991年 哲学者 若林明彦と結婚
2000年 ジェネシス・インスティテュート設立、直感的アートアプローチ方法ジェネシスウェイを指導
2021年The Wagamama Bride:執筆出版
現在イスラエル在住。ジェネシスウェイを指導する傍ら、エルサレムポスト、ユダヤ人の前進、ジャパンタイムズ、京都ジャーナルなどに30年間の日本ライフストーリーを掲載。
ジェネシス・インスティテュートの功績により、エルサレム市長モシェ・リオン氏より「エキスパートアーティスト」ステータスを授与。
https://www.genesiscards.com/

The Wagamama Bride: A Jewish Family Saga Made in Japan
Liane Grunberg Wakabayashi (著)
出版社 ‏ : ‎ Goshen Books www.goshenbooks.com
発売日 ‏ : ‎ 2021/4/11
言語 ‏ : ‎ 英語
ペーパーバック版 ‏ : ‎ 286ページ
値段:2120円
kindle版:ファイルサイズ ‏ : ‎ 1024 KB /220ページ
言語 ‏ : ‎ 英語
値段:874円