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BUSINESS

日本の米栽培をサステナブルなビジネスモデルに ネタフィムが実現した大きな一歩 

by ISRAERU 編集部 |2023年01月24日

イスラエル発の農業とITをかけ合わせたアグリテック企業『ネタフィム』は、昨年5月に点滴灌水を導入し乾田で米栽培する実証実験をスタート。10月に収穫を迎えました。


これは水と肥料の無駄を削減し、地球温暖化の原因となるメタンガスの発生を抑制するビジネスモデルへの転換を目指す試み。その第一歩を踏み出しました。 


稲刈り前の様子/水田区と変わらぬ豊かな実りに恵まれた

ネタフィムの日本支社・ネタフィムジャパン株式会社はこれまで、日本農業の生産性向上を目指し点滴潅水の普及を行ってきました。 


都市型緑化プログラムにも積極的に取り組み、恵比寿ガーデンプレイスや豊洲市場の屋上緑化に実績を残してきました。そのほか、東京オリンピック 2020 では国立競技場と選手村でもネタフィムの点滴潅水システムが採用されています。


 土壌トラブルはなく、食味成分の結果も良好 


ネタフィムジャパンは昨年5月、秋田県五城目町と長野県東御市の2拠点で、点滴灌水を導入した乾田での米栽培の実証実験を開始。昨年10月に収穫を終え、順調な育成を達成しました。食味成分分析においても、食味劣化の原因たんぱく質やアミロース含量が少なくなる(水田区に比べてタンパク質が0.2~1.2%減、アミロースが1%減)という結果に。点滴灌水によって品質が劣ることはありませんでした。 


この実証実験によって、これからの環境負荷や生産過程の課題解決の礎が築かれました。 


点滴チューブを巻き取って撤去した後、収穫を実施

点滴灌水によって変化したこと 


実験協力農家の株式会社白倉ファーム・代表取締役 白倉卓馬氏は、点滴灌水で栽培したことで生産過程が変化したと話します。具体的には、主に以下のポイントを実現できました。 


大量の水を使わずに栽培

高台にある東御市八重原地区は、台形で水はけの良い地形であったものの水資源は決して潤沢ではなく、溜池の水を使って米を栽培しています。点滴灌水によって水の消費量は60%減少し、これによって雨の降らない日が続いても干ばつ対策に奔走することがなくなりました。 


適度な水分を圃場に保持

気象データと生育ステージから圃場に必要な水分量を算出し、適切なタイミングで灌水することによって常に適度に湿った土壌を保つことができるように。従来の水田方式とは違う、米にとって最適な生育環境を生み出しました。 


水管理における労働力を削減

制御式の点滴灌水によって常に圃場をコントロールすることで、水管理のために圃場の様子を頻繁に見にいく必要がなくなり、労働力の削減に繋がりました。 


点滴チューブの他に、詰まりを防止するフィルターや施肥装置など精密灌水に必要な装置も設置

点滴灌水によって解消されたこと 


なぜ点滴灌水が必要だったのでしょうか。それは、水田から発生する二酸化炭素の約20倍以上の温室効果ガス「メタンガス」の抑制を目指すためです。 


日本の農地の54%(令和3年7月15日耕地面積、農林水産省)を占める米および水田での栽培の課題として、二酸化炭素の約28倍の温室効果があるメタンガスが水田で発生していることが世界的に注目されています。 


水田の土壌の中には、空気に触れず酸素が少ない環境で、有機物が分解する際にメタンを生成する微生物(メタン生成菌)が存在しています。そして生成されたメタンは、稲の中にある空気の通り道「空隙(くうげき)」を伝って大気中に放出されています。 


2020年に発表された気候変動に対する農林水産省の取り組みによると、日本の農業分野においては年間5,001万トン発生。そのうち二酸化炭素の28倍とも言われる温室効果のあるメタンガスは46%と最も比率が高く、その半分以上が稲作に由来しています。稲作以外での発生源は、家畜のゲップや排泄です。


 近年、社会が環境に与え続けてきた多大な負荷の蓄積と環境破壊が危惧される中で、メタンガスも環境への負荷の大きさから、各方面から対策を促されています。 


点滴灌水システムでは、土壌に水を張らず乾いた土壌に点滴チューブを設置して灌水を行うことで、土が常に空気に触れてメタンガスが発生することを大幅に抑制することができます。地球環境への負荷を軽減でき、さらに「水と肥料の有効活用」「労力削減」といった点滴チューブを使った精密管理農業ならではの効果も見込めます。


田植え後、水を落として点滴灌水システムおよび点滴チューブを設置した直後の様子

点滴灌水は、作物に直接必要な最小限の水と液体肥料を与えることができることから、一度に与えた大量の肥料が大雨で流れてしまうなどの無駄を防ぐことができます。特に、近年のゲリラ豪雨や干ばつなどの不安定な気候では、少しずつ精密な管理によって灌水・施肥を行い常に土壌を健康な状態に保つことが、長期にわたる甚大な被害を防ぐためのより重要な条件になっています。さらに、社会情勢の変化により高騰している肥料を無駄なく有効に利用することもできます。 


労働力不足の問題も解消 


海に囲まれ川が多い日本は、水資源に恵まれたイメージがあります。ですが近年の異常気象による影響は大きく、干ばつの発生や突然の豪雨による土壌への悪影響など、農業には深刻な被害が及んでいます。また潜在的な課題として、農業用水路の水門の開閉や調整といった管理に多くの労働力が割かれています。 


国内において、施設園芸や果樹・露地栽培分野であらゆる作物に上記のような理由から点滴灌水システムが導入されていますが、稲作分野で水稲品種の栽培に点滴灌水を導入するのはネタフィムジャパンとして初の試みとなります。 


ネタフィムジャパンは「GROW MORE WITH LESS(より少ない資源で、より多くの成長を)」を掲げて、日本の農業にもたらすべく課題解決とより良い食糧生産環境の創造へ挑戦しているのです。 


点滴灌水システム導入後、1ヶ月が経過/乾いた田に、点滴チューブから灌水され、成長している

ネタフィムについて

 Netafim(ネタフィム)は、農家のための農家によって1965年イスラエルで設立。砂漠の土壌で作物を栽培する環境から点滴灌水は生まれ、現在その技術は110か国に拡大し世界の農業をリードしています。世界に33の子会社と17の製造工場があり、今までに1,000万ヘクタール以上の土地を灌漑。200万を超える生産者の方々に1,500億以上のドリッパーを生産してきました。世界最大の灌水メーカーとしてスマート農業の普及を推進し、資源不足の問題に取り組むとともに、さらなる農業の発展を目指しています。 


■ネタフィムジャパン公式ホームページ 
   https://www.netafim.jp/