私たちの体や地球をつくる炭素や酸素、鉄はどこから来たのでしょうか。英国の研究チームは、スーパーコンピュータによるシミュレーションで、宇宙最初の恒星が生命の材料となる元素を生み出し、宇宙へ広げていった過程を再現しました。

かつて宇宙には「生命の材料」がなかった
約138億年前のビッグバンによって宇宙は誕生しました。しかし、その直後の宇宙に存在していたのは主に水素とヘリウムだけでした。
現在の地球や人間の体を構成する炭素、酸素、窒素、鉄、カルシウムといった元素は、まだどこにも存在していなかったのです。
転機となったのが、宇宙で最初に生まれた恒星でした。恒星の内部では核融合反応によって新しい元素が次々と作られます。そして寿命を迎えた恒星が超新星爆発を起こすと、それらの元素が宇宙空間へ放出されました。
その後、新たな恒星や惑星が形成され、やがて生命が誕生します。つまり私たちの体を構成する元素の多くは、遠い昔に存在した恒星の内部で生まれたものなのです。
天文学者カール・セーガンが語った「私たちは星のかけらでできている」という言葉は、単なる詩的な表現ではなく、科学的な事実でもあります。

宇宙の始まりを探る「宇宙考古学」
今回の研究は、英国バース大学などが進める「MEGATRON」プロジェクトによるものです。
研究チームが目指しているのは、宇宙最初の恒星や銀河の姿を再現することです。しかし、最初の恒星そのものを直接観測することは容易ではありません。
そこで研究者たちは二つの手がかりを利用します。一つはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が観測する、130億年以上前の遠方銀河です。もう一つは、天の川銀河に現在も存在する極めて古い恒星です。

古い恒星には、誕生した当時の宇宙環境が化学組成として刻まれています。考古学者が遺跡から過去の文明を読み解くように、天文学者たちは恒星に残された「化学の痕跡」から宇宙の歴史を探っています。この研究分野はしばしば「宇宙考古学」と呼ばれています。
スーパーコンピュータが再現した宇宙の夜明け
MEGATRONでは、重い元素をまったく含まない原始宇宙のガスから計算をスタートします。そして最初の恒星の誕生、放射される光、超新星爆発、元素の生成と拡散までを追跡していきます。
今回のシミュレーションでは、恒星の光が周囲のガスにどのような影響を与えたのか、また生み出された元素がどのように広がったのかを、これまで以上に高い精度で再現することに成功しました。

研究チームによると、従来のモデルでは十分に捉えられていなかったガスの複雑な構造や化学反応も確認できたといいます。これにより、初期の銀河がどのように成長し、宇宙全体が現在の姿へと進化したのかをより正確に理解できる可能性があります。
私たちの起源をたどる旅
研究を率いるマーティン・レイ博士は、「炭素や酸素、鉄など、私たちの世界や生命を可能にしている元素は恒星によって作られた」と説明しています。
私たちが毎日吸っている酸素も、骨をつくるカルシウムも、血液中の鉄も、その起源をたどれば遠い昔に輝いていた恒星へと行き着きます。
宇宙の始まりを研究することは、単に天文学の謎を解くことではありません。それは、人類や生命がどこから来たのかを知るための挑戦でもあります。
最新の宇宙望遠鏡とスーパーコンピュータによって、人類は今、自らの起源へと続く壮大な物語を少しずつ読み解き始めています。遠い宇宙の歴史を探る研究は、実は私たち自身の物語を知るための旅でもあるのです。
*本記事はイスラエルメディアHayadanの報道をもとに構成しています。


