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BUSINESS

スマートシティ実現の推進力、商業ビルをスマートビルに変える「建物OS」

独占インタビュー|エミル・アロン(Resonai CEO)、ドロン・ホウミナー(同 プロダクト責任者)

by ISRAERU 編集部 |2023年05月10日

AR(仮想現実)やVR(拡張現実)などの技術分野に興味のある方なら、最近「建物OS」という言葉を耳にしたことがあるかも知れません。建物OSとは、オフィスビルなど商業ビルの建物全体を、ARを活用して統合的に管理するシステムのことで、日本の大手ゼネコン各社も続々と導入を発表しています。


これまでは、同じ建物内にある空調や照明、エレベーターなどの設備はそれぞれ違うメーカーにより管理されていました。しかし建物OSの活用によりこれらの一元管理が可能となり、スマートシティを実現する次世代まちづくりへの貢献が期待されています。


最近、日本市場への本格参入を発表したResonai(以下レゾナイ)は、「建物OS(不動産テック)」のイスラエルスタートアップ。レゾナイの建物OS「Vera」は、企業や消費者に商業用不動産を管理する革命的な方法をもたらす、最先端のコンピュータビジョンと機械学習プラットフォームです。Veraは、企業が業務を改善し、新たな収益機会を創生し、施設内における利用者のエクスペリエンスやコミュニケーション手段の変革を支援します。


当インタビューでは、レゾナイの創設者兼CEOであるEmil Alon(エミル・アロン、以下エミル)氏と、同社のプロダクト責任者であるDoron Houminer(ドロン・ホウミナー、以下ドロン)氏にお話を伺いました。


―――まずは、ご自分の経歴についてお話しいただけますか。


エミル:レゾナイの創設者兼CEOであるエミル・アロンです。当社は2014年に創立したテルアビブを拠点とする人工知能とコンピュータビジョンの企業であり、現在アメリカ、ヨーロッパ、日本を含むアジア地域で展開中です。レゾナイ創立以前は、Facebookにより買収された、VRおよびARセンシングプラットフォームプロバイダである「Pebbles Interfaces」のCEOを務めていました。また、検索・自動広告エンジンおよびコンテンツレコメンデーションプラットフォームを提供する「Collarity」の創設者兼CTOでもあり、検索と3Dの分野で30件の特許を取得しています。


左:エミル・アロン(Resonai CEO)、右:ドロン・ホウミナー(同 プロダクト責任者)

ドロン:レゾナイのプロダクト責任者、ドロン・ホウミナーです。約1年前にレゾナイに入社し、当社のコアプロダクト「Vera」のプロダクトとロードマップを統括しています。イスラエルの技術系企業において25年以上の経験を持ち、2011年からコンピュータビジョンとディープラーニングのソリューションを活用し、プロスポーツ、健康、ゲーム業界といった特定分野のニーズの解決に取り組みました。当社のような革新的企業の一員となり、不動産管理業界の変革という使命に貢献できることを光栄に思っています。


―――「建物OS」という言葉を最近目にすることが増えてきましたが、なかなかイメージが湧きづらいという読者も多いと思います。まず、貴社のコアサービスである建物OS、Veraについて教えていただけますか。


ドロン:世界は現在、物理的な世界とデジタルな世界が融合する大きな変革期を迎えています。企業は、効率性を高め、競争力をつけるために、デジタル技術を急速に導入しています。このデジタル革命の最前線にいるのが、物理世界とデジタル世界の架け橋となる基礎的なファブリックを提供するVeraです。


Veraによる建物管理画面イメージ図

Veraは、物理的な資産をインテリジェントなデジタル環境へと変える最先端のプラットフォームであり、FM(ファシリティマネジメント)や小売物件オーナー、ビル管理者に不動産運用管理の改善や物件に関するインサイトを提供したり、それらを活用した新しいビジネス収益源の確保を支援します。またテナントや入居者、来訪者に対し、革新的な体験を通じた物理環境との新しい関わり方を提供し、より高い顧客エンゲージメントと満足度の向上を促進します。当社の最終的なビジョンは、世界中のすべての不動産が、Veraを活用したインテリジェントなデジタル不動産に変革されることです。


―――既に協業関係にある日本企業があると聞きました


エミル:鹿島建設と竹中工務店と協業関係にあります。鹿島建設は、設計、エンジニアリング、建設、不動産開発、環境コンサルなどのサービスを提供する、日本で最も古く最も大きな建設会社の1つです。鹿島の東京・赤坂KタワーにはVeraが導入されており、このビルはオフィス、住宅、商業機能を兼ね備えています。


日本の建設会社の中でトップ5に入る竹中工務店グループは、大阪府大阪市中央区に本社を置き、建築、エンジニアリング、建設サービスを提供しており、2,200棟以上のビルを所有・運営しています。竹中工務店の大阪・御堂ビルと隣接する地下鉄の駅にVeraが導入されています。


Veraによる建物管理画面イメージ図

―――つまり、日本国内ですでにVeraを体験できるということですね。どうすればこのプラットフォームにアクセスできるのでしょうか


ドロン:Veraは誰もが利用可能な共通プラットフォームであり、Veraに対応した施設や建物への入り口となる「Veraアプリ」をiOSとAndroidの両方で提供しています。Veraアプリは、アプリストアからダウンロードするだけで誰でも簡単に利用することができます。Veraを施設に導入すると、プラットフォーム・サービスの基本的な構成要素である6DoF (※1) 位置情報とトラッキング、マッピング、道案内などの機能が利用できるようになり、施設側は、施設内に導入するエクスペリエンスやアプリケーションを選択できるようになります。また、クライアントやパートナーに新しいエクスペリエンスの創造機会を提供するSDK(ソフトウェア開発キット)も開発しています。


Veraプラットフォームが適用されたエリアに移動してVeraアプリを開くと、Veraの提供するあらゆる機能を体験することができます。例として、2Dや3DのARナビゲーションの利用や、訪問中の施設全体において看板や広告を表示する機能、またインタラクティブな体験ができたり、ゲーム機能も含まれていたりします。技術者が問題を発見して解決するための施設管理や、テナント同士が建物内で交流することを目的とする使用例もあります。


Veraによる建物管理画面イメージ図

エミル:加えて当社は、B2B、B2Cともに対応する、施設オーナーがアプリケーション側を管理することができるウェブベースの管理ツールを提供しており、アプリケーションを介した対話も可能です。つまり、Veraは施設のオペレーターやオーナーのためのツールを提供する非常に柔軟なOSであり、SDKやネイティブSDKは、いかなるデジタル環境においても実際に組み込むことができ、既存のビジネスアプリケーションへ統合も可能です。


そしてドロンが言ったように、権限とアクセス制御システムに基づいて、ユーザーエクスペリエンスを高度にパーソナライズすることができます。同じ場所にいたとしても、異なるユーザーペルソナは異なるレイヤーの体験が提供されます。例えば、ユーザーが冷房システムを管理する技術者であれば、冷房システムに関する情報やAR体験を追加で見ることができます。彼らがスマートフォンで冷房システムを見ると、制御システムとコントローラーが表示され、そこから冷房システムを操作することができます。


Veraによる建物管理画面イメージ図

アクセス制御を動的に定義することができる点も特徴です。例えばユーザーが、あるオフィスビルの会議室を午後1時から午後2時の間に予約したとします。そうすると、その間該当のユーザーは会議室にある照明、空調、通信機器、スピーカー、テレビ画面などすべてのデバイスをスマートフォンで操作することができます。またこの予約はカレンダーと連動しており、会議が終了すると自動的にそれらのコントロール権は消失します。


また、空間に影響を与えられるような体験の創出を可能にします。例えば、Veraが導入されたショッピングモール内で、スマートフォンを20メートル先にあるカフェに向けるとメニューを見ることができます。ユーザーはカフェの隣の店から、席の予約やコーヒーの注文ができます。そして、準備ができたらお知らせが届き、コーヒーを受け取るだけ。お会計も済んでいます。スマートフォンを向けるだけでこれらのすべてが完結するのです。


Veraによる建物管理画面イメージ図

―――Veraは、映画や小説の話を現実世界にもたらす正にゲームチェンジャーですね。現在、どのような市場で最も普及しているのでしょうか?


ドロン:Veraは、多くの市場や産業で利用されていますが、特に勢いのある主要な業種には、施設管理、商業不動産(CRE)、ショッピングモールなどの消費者向けサイトなどがあります。


―――これまで、大規模商業施設などにおけるVeraの導入例についてお話しいただきましたが、個人の住宅にもVeraを適用することはできるのでしょうか?


エミル:技術的には全く問題なく実現できます。しかし、現在はより迅速な規模拡大のため、特定の業種に集中する必要があると思っています。ですから、個人宅やアパートにはもいずれは導入されると思いますが、まずは複雑な機能を持つ大きな公共空間の実現への取り組みを優先したいと考えています。


Veraによる建物管理画面イメージ図

―――近い将来、私達の自宅をスマートフォンひとつでコントロールできるようになるかも知れないだなんて、とてもエキサイティングです。競合他社と、それらに対する御社の位置づけについてお聞かせいただけますか。


ドロン:レゾナイは、大小さまざまな企業が市場シェアを競い合う、競争の激しいAR市場において存在感を示すプレーヤーです。競合他社の中には、当社の機能や使用例のサブセットに特化しているところもありますが、Veraプラットフォームのように包括的なエンドツーエンドのソリューションを提供している競合は今のところ存在しません。各領域における代表的な競合企業としては、ナイアンティック社、PTC Vuforia、Matterportが、また潜在的な競合としてAppleとGoogleが挙げられます。


―――貴社のビジネスに、COVID19の大流行はどのような影響を与えましたか?また、それにどのように対応されたのでしょうか。


エミル:パンデミックによって不動産オーナーたちが、物理的なソリューションではなく、柔軟性がありパーソナライズされたARベースのソリューションの必要性をこれまで以上に認識したことは確かです。例えば、屋内ナビゲーション、ユーザーに提示されるロケーションベースの情報、ARチュートリアル、ロケーションベースの効率的なメンテナンスなどのソリューションに対する需要はパンデミックの間に間違いなく高まりました。


Veraによる建物管理画面イメージ図

パンデミックの影響でクライアントを訪問することが難しくなり、テレビ会議による遠隔セットアップに切り替える必要がありました。理想的な形とは言い難いかも知れませんが、世界中の多くの人々がリモートワークへと移行していったように、我々も徐々に順応していきました。


―――今後の展開についてお聞かせください。


エミル:建築環境を完全にデジタル化されたエコシステムへと変貌させるVera OSは、クロスプラットフォームコンテンツの作成と消費を可能にし、物理世界とデジタル世界を融合させた新しいコネクテッド・ウェブの出現を促進します。


Veraエコシステムには、すでに複数のシステムインテグレータとグローバルサービスプロバイダが組み込まれています。世界的なプレゼンスとパイプラインを駆使して、不動産オーナーやオペレーター、開発者たちの抱える最も深刻な問題を解決し、将来のビジネスオペレーションの設定を行いながら、大きな成長を遂げていくことが目標です。


私たちの日常生活や体験を、より有意義なものにするためにARを活用することが当社の指針であり、身の周りの物理的な世界にデジタル技術や視覚的エクスペリエンスを重ね合わせることで、世界をより豊かなものにしてきたいと考えています。




※1:3次元において剛体が取り得る動きの自由度のこと。前後・上下・左右に動くことができ、また直交座標系の3軸の各周囲を回転できることを指す。


Resonai Ltd.



建物をスマートなデジタル空間として再現し、AR(拡張現実)技術でその空間を操ることで、Resonaiは多くの業界においてビジネスに無限の可能性をもたらしています。Resonai協業や、AR技術についてご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。

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