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日本をスタートアップ大国にするには?鍵はイスラエルスタートアップ企業の商品完成度&日本企業の柔軟性

by 平野貴之 |2023年03月02日

2022年11月、日本政府は「スタートアップ育成5カ年計画」として、スタートアップ企業への国内投資を年間8000億円規模、2027年度には10兆円規模までに拡大するロードマップを示した。その目標の一つは、スタートアップ企業を10万社創出し、創業10年以内で評価額10億ドルを超える未上場のユニコーンを100社創出することだ。


2023年1月初旬、西村康稔 経済産業相は、毎年米国ラスベガスで開催されている家電IT展示会「CES」を訪れ、イスラエル、日本、フランスの新興企業を視察。後に報道陣の取材に対して、「5年間でユニコーン企業(企業価値10億ドル=約1,320億円以上の未上場企業)を100社つくるという目標に向け、補正予算を確保し応援していきたい」と語った。具体的な策の一つとして、今後5年間をかけて、日本の若手起業家ら約1000人をイスラエルやフランスなど各国へ派遣し、ビジネス拡大へ支援する取り組みをスタートさせる。



同時に、東京都はスタートアップの育成支援につながる環境を整えるために、「Tokyo Innovation Base」を整備することを明らかにした。世界有数のスタートアップ支援拠点として知られるフランスの「ステーションF」を参考に、25億円の事業費を見込んで、24年度の本格開業を目指す。


日本でもやっとスタートアップ企業への支援が本格化してきたことを大変嬉しく思う。もっと日本を豊かに活性化させ、日本の社会構造をより良くアップグレードさせていくためにも、スタートアップ企業が積極的に活動できる環境、そして、受け入れる環境を作り、イノベイティブなテクノロジーやアイディをビジネス化していくことが必要だと感じている。



日本の「起業のしやすさ」は世界106位

世界銀行グループが発表している190カ国における「ビジネス環境の現状」によると、日本ビジネス環境の位置付けは、「起業のしやすさ」が106位、「資金調達のしやすさ」が94位(2020年)だった。


海外のランキング調査によれば、東京のスタートアップ育成環境は、北京や上海、ソウルよりも順位が低く、米国に比べてスタートアップ企業も乏しいのが現状である。


「スタートアップ5カ年計画」ロードマップの3本柱は以下の通り。


(1)スタートアップ創出に向けた人材、ネットワークの構築

(2)スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化

(3)オープンイノベーションの推進

(企業の枠にとらわれない、事業促進や創業のための税制措置等の見直し整備)


日本を起業しやすい国にするためには、人材、資金等以外に、チャレンジ精神を含むリーダーのソフトスキルの向上や、グローバルビジネスとのギャップを克服ことも重要だ。だからこそ、イスラエルのスタートアップ企業のリーダーたちから学び、日本市場に合わせてビジネス化することを期待している。


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平野貴之 / 2021年11月03日


35社以上に及ぶ海外スタートアップ企業の日本代表経験を通して、海外スタートアップ企業のCEO、COO、VP(ヴァイスプレジデント)と日常的に仕事を行う中で、イスラエルスタートアップ企業の経営者達の特性に私は注目している。それは、イスラエルスタートアップ企業特有のチャレンジ精神、諦めない精神、アクションファースト、結果重視、時短かつスーパー効率的な仕事手法、プライオリティやゴールの明確化などだ。これらは日本のスタートアップ企業でも実践されるべきだ。


27年間に渡り、海外最先端グローバル企業やイスラエルスタートアップ(B2B)企業を支援してきた実例から、一例として「イスラエルスタートアップ企業と日本企業における商品の完成度と柔軟性」についてお話をしていく。


海外スタートアップと日本企業が求める「商品完成度」の違いとは?

海外スタートアップ企業が認識している商品完成度と、日本企業が求める商品完成度の定義にはギャップがある。イスラエル企業を含む海外企業の商品完成度は、日本企業に比べると低いと言える。特にソフトウェアやサービスに関しては顕著である。


結論からお伝えすると大きく2点の違いがある。


❶商品やサービスをローンチするタイミングの違い
❷商品やサービスへの品質こだわり・完成度の定義の違い


品質へ求める価値観の違い


例えば、皆さんがご存知のクラウドストレージ『Dropbox』は、アメリカの『Dropbox, Inc.』が提供するオンラインストレージサービスである。サービス開始当初は利用料が無料だった。サービスにはバグなどもあり、100%の状態ではなかったため、無料でサービスを開始したところ、瞬く間に世界でユーザ数が増加していった。ユーザの増加につれ、サービスを随時アップデートし、商品の完成度を上々に上げていき、最終的には有料化に踏み切ったのであった。


『Google』も実際のサービスをローンチする前に、多くのβ版をユーザに提供をしていた。また『Apple』でも、ソフトウェアの利用中に、「開発者にその情報を共有しますか?」と聞かれることがある。


B2Cにおいては、上記のように、ベータ版でお客様とバグフィックスを行い、商品リリースをするのが通例になっていた。今では、B2Bビジネスにおいても同様であると感じている。


イスラエルのスタートアップ企業は、多少バグがあってもサービスの提供をまずは開始し、並行して新たなビジネス開発をスタートする「グローバルスタンダード手法」の考えが一般的だ。高品質でバグがない完璧な商品にこだわるあまり、サービスを提供するまでに時間がかかってしまうことを懸念するのである。


一方、モノづくり大国の日本は、商品やサービスに対するこだわりや品質の高さは世界一といえる。日本企業側からすると、バグゼロが当たり前というのが基本なので、「パーフェクトではない商品を顧客にバグFixさせる、もしくはアシストさせることはルール違反だ」 とネガティヴな感情が先に出てしまう傾向があるようだ。



品質へのこだわりは非常に大切だが、過剰なこだわりはビジネスチャンスを逃す要因になりかねない。品質と価格を比較した時、他国の商品に負けてしまう事例も多くあった。1990年代の時価総額企業ランキングには多くの日本企業が存在していたにも関わらず、2022年では、日本企業はわずかトヨタ自動車のみがTop50にランクインしていた。他の日本家電メーカーやIT企業は残念ながらランク外だった。これも品質への過剰なこだわりやTime To Marketへのタイミング、そしてグローバル市場への柔軟性不足が原因でビジネスチャンスを逃がしていたのかもしれない。


イスラエルスタートアップ企業のテクノロジーを利用する際は、この点も考慮し、日本企業が求める品質や機能を事前に海外企業と確認し、新たに開発する機能に関しては、いつまでに開発終了するのかなど、スケジュールをきちんと契約書内へ明記させることが重要だ。契約書ベースで動く海外企業の思考に合わせることで、国内で商品をローンチするタイミングのリスクヘッジが可能となる。


日本企業が柔軟性を身につければ、さらなる発展へつながる


以前、某日本大手企業がイスラエルのソフトウェア企業の技術を大変気に入り、導入決定をしたときの話。


両社間同意の上、半完成品だったソフトウェア(日本独自機能がまだ未投入状態だった)を導入した。本来、イスラエル企業の技術担当者が来日し、日本企業社内にて機能テストを行うはずだった。しかし、コロナによる入国制限の影響で、外国企業の担当者が来日できなくなり、イスラエル側には日本側とまったく同じシステム環境がない、イスラエル側で機能テストを行うわけにもいかず、結局日本企業に対し『日本側単独で機能テストを行ってくれないか』とリクエストをした。リクエストを受けた日本企業は、仕方なくすべての機能確認・テストを自社で行ったことに激怒し、両社の関係が一気に悪化してしまった。


日本企業側は『こっちが顧客なのに、どうしてテストもなにもかも自社で行わなければならないのだ』と激怒。一方、イスラエル企業側にはまったく悪気がなく、日本の環境でテストを行わなければならないが、コロナの影響で日本に技術者を送れないので、仕方なく機能テストをお願いしただけだと思っている。



日本企業とイスラエル企業、それぞれを主語にした場合、回答は違うが、ゴールは同じだ。お互い対等な立場であるのが本来あるべき姿勢だと考える。日本企業が柔軟に対応することでイスラエル企業への貸しとなり、今後の交渉時に上手に利用すれば、より良い関係を築けるだけでなく、お互い最大の利益を得られるだろう。


海外スタートアップ企業の「グローバルスタンダード手法」、そして日本企業が求める「ゼロバグ完成度への期待と要求」。両社間の認識の違いに直面した際は、感情を抜きに、論理的かつ柔軟性を持って対応することが問題解決の鍵となる。課題に直面しても、新しいテクノロジーを利用できるメリットのほうがはるかに大きい。


グローバル企業も日本企業もやらなければいけないタスクは同じで、順番が違うだけである。海外企業とパートナーを組む際に、相手の思考や立場、そして認識の違いをしっかり理解したうえ、事前に考えられることはすべて書き出し、相手に伝えることで、ビジネス文化の違いを克服しさらなる発展へつながる。


1+1=∞(無限大)になる方法だ。


海外企業とパートナーシップ確立するメリット

ビジネス文化の違いが認識した上で、海外企業、特にイスラエル企業とパートナーシップを確立することで得られるメリットは以下の通りだ。


❶社外に対して(海外最新テクノロジーが日本市場に存在していないことを前提として)

  • 国内競合他社が導入していない最新テクノロジーを素早く利用可能
  • 市場におけるリーダー的存在となれる確率が高い
  • 最先端技術を取り込むチャレンジ精神が評価される

❷社内において

  • イスラエルスタートアップ企業との仕事の進め方や、短時間での判断力など、社員教育につながる
  • チャレンジすることの大切さや、チャレンジが失敗ではなく成功のもとになる事を実践で学べる
  • 実際に学んだ経験を国内ビジネスにも活かせ、社内体制へ良好な影響を与えられる

イスラエル企業とのパートナーシップを確立する強い意志、会社としての方向性、何より、現状を打破するチャレンジ精神をプロジェクトメンバーに浸透させることが重要である。チャレンジ精神やイノベーションへの取り組みなどを、社員評価基準のクライテリアとしても追加すべきだと考える。


グローバルビジネス感を養い、希望を常に具体化し、方向性、考え方や思いをきちんとイスラエル企業に伝える。そして、議論、交渉、契約という順番で進めることで、WinーWinな関係になれるはずだ。


今回のスタートアップ育成5カ年計画を機に、世界を相手にビジネスするイスラエルスタートアップ企業のように、日本がアジア最大のスタートアップ国になれば嬉しい。一人でも多くの日本のビジネスマンが、チャレンジ精神を学び、日本と海外の良い点を融合させ、『新たなビジネススタイル』を作り上げていただきたい。

スタートアップ企業、そして、スケールアップ企業とのパートナーシップが今以上に増え、日本のスタートアップ企業が今後さらなる飛躍を遂げることを期待したい。官民一体となり、一歩一歩、より良い日本のために、私たちもチャレンジし続けていく。